縁起堂 21
なぜ己を危険に晒してでも、他の者を救えるのか。
それが、決して犠牲的精神からではないことを、信じるのは難しい筈だ。
人間には、人の為に命を投げ出すことは当たり前だという意識が、ないからだ。
それが、宮の言う私なのだろう。
そして、私のどこが悪いと人は言うのだろう。
悪いと、何のためらいもなく宮達は答える筈である。
なぜか。
争いと苦しみの満ちた人界が、その答えだ。
「どうして人は、違うのでしょう?」
銀丸に真剣にそう聞かれて、宮は苦笑した。
「それはとても難しい。私の一生涯をかけても、解けぬ謎だろうな」
宮にすら、理解できないことがあるのだ。
不老不死の宮の一生涯は、永遠に終わることはない。
と言うことはつまり、永遠に人と妖かしは理解し合えないということになる。
「人は平等だと言うが、平等なのは、人間ないだけのことだ。命を秤にかけた時、人は人以外の生き物を簡単に切り捨てる。否、秤にかけることすらしない」
人間ないですら平等ではないが、話が複雑になるので、ここでは宮は触れずにおいた。
人間同士を秤にかけた場合、必ず切り捨てられる方が出てくるからである。
危急の際、人はどちらが生き残るべきかを考える。
妖かしは、己のできることをするだけであった。
「生き物は、妖かしであろうと人間であろうと獣であろうと、それぞれが尊いのだ。どちらが上でどちらが下など、そもそも論じることからしておかしい。私も其の方も、他の生き物も、かけがえなく大切なのだ。永ではない、限りある命しか持たない彼等には、余計にそうである筈だ。それが、永でない為に、私に走る。他の生き物も自分も、同じようにかけがえのない命を持っているのに、自分だけが助かりたいと思うのだ。そんな考えを持つのは、人間だけだ。人だけが、個であることを止めている。それを進化と、それを己ら種族が高等な所為だと、人は思っているのだ。人には雨は呼べぬ、だから散水機を使う。人は空は飛べぬ、だから飛行機を作った。人は牙を持たぬ、だから武器を持つ。人間は、肉体の能力を科学力で補っている。人は、それを誇りとしている」
銀丸は人間ではないので、誇りにして当たり前ではないかなどとは言わなかった。
「へぇ」と、呆れたように呟いただけだ。
宮の話はまだ終わらない。
「しかし、鳥は飛べることを誇らぬ。蛇も毒を持つことを誇らない。それは、それぞれの種族に与えられた特性でしかないことを知っているからだ。人は、科学を使う特性を与えられたに過ぎぬ。科学の力は、確かに素晴らしいだろうが、本来は他と比べること自体がおかしいのだ」




