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縁起堂 19

 聖徳太子という人物は、一度に十人の話を聞けたと言うが、宮は話を聞いて更に、他の用事まで熟してしまうのだ。

 しょせん聖徳太子の話は、作り話である。

 一度に十人の話を聞いた云々ではなく、聖徳太子という人物自体が架空なのだ。

 

 和をもって尊しとなすの、十七条憲法の教え、冠位十二階の制を作った知恵。

 

 聖徳太子は、人徳と知識の人と言われている。

 

 徳と智。

 

 まるで聖徳太子は、宮のようだとは思わないか。

 もちろん、たかが人の身で、宮に勝るとも劣らない知識と徳を備えることは無理である。


 とは言うものの聖徳太子の人物像は、飛鳥時代、推古天皇に仕えていた冥府の妖かしが、宮を元に作り出したものだったのだ。

 十七条憲法を作り、冠位十二階の制度を整えたのは、その妖かしであった。


 但し、その妖かし――死したのち、冥府の守り神として崇められている為、真名を軽々しく呼ぶことは許されていない――は、聖徳太子こと水宮の絵姿の陰になって、歴史書には聖徳太子という名前だけが残ることになったのである。

 

 聖徳太子は存在しなかったという説が、提出されて物議を醸したが、その事実は人界においては珍説としてしか見られていない。

 十人の人間の話を聞いて、それに重ねて他のことができる者は、今までもこれからも宮をおいて他にないだろう。

 


 銀丸はあとは手出しをせず、宮の側に突っ立っているだけで満足していた。


 突然、銀丸が「そうなると、人はどうなると言うのですか?」と聞いても宮は、もう驚かなかった。

 宮は、銀丸との会話にもなれてきたようだ。

「そうなると人は、廃人になってしまう」

 

 記憶が全てなくなると、人はどうなるか。

 宮がそれを言おうとした時、銀丸は茶碗をとり落としたのである。


「廃人になろうが何だろうが、人間なんて、どうでもいいではありませぬか」

 銀丸は、強い調子でそう言った。


 言葉に込められた憤りに宮は驚いて、目をパチクリとさせた。そして、にっこりと微笑むと優しい声で、

「どうして其の方はそう言うのか、聞かせてくれぬか?」と、言った。


「宮様は、そのようなことを言ってはならぬと、叱らないのですね」

 銀丸は出鼻を挫かれて、毒気を抜かれた様子でそう言った。

 

 以前に、同じようなことを誰かに言って、叱られたことがあるようだ。

 兄の誰かではあろうが、長兄ちょうけい金丸くろがねまるではないことだけは確かだ。

 

 金丸の性質であれば、銀丸がそのようなことを言えば、慌てて口を塞いで、二度と口にしてはならぬと、言い聞かせるであろうからだ。

 

 そんなことは言うものではないと強く言われただけで、理由までは説明してもらえなかったに違いない。


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