縁起堂 18
宮が、力を使って止めたのだ。
宮が銀丸に、控え目ながら
「あまり家事は得意ではないのか?」と聞くと、
銀丸は「はぁ」ととぼけた返事をして、
「しょっちゅう物を壊したり、余計な手間を増やしておりました」と、神妙な顔で言った。
銀丸は更に「ですから母には、最終的には、私は家事には関わるなと言われました」と、続けたのだ。
宮は、
「其の方の母上は、正しい目を持っているな」と、皮肉ではなく言う。
銀丸はそれにも「はぁ」と、些か間の抜けた返事を返したのだった。
そして済まなさそうに「あのぅ」と銀丸が声をかけてきたものだから宮はてっきり、やはり手伝いはしない方が良いようですと、銀丸が辞退してくるかと思ったのだ。
しかし銀丸は、
「どうして、全ての記憶までなくなってしまうのでしょう?」
と、聞いてきただけだった。
「人間の記憶はな、歯車やネジの沢山ある精巧で複雑な機械のようなものだ。一つ二つ抜いたぐらいでは、うまく組み合わさっていて、決して崩れたりしないようになっている。ただ、そんな小さな歯車やネジであっても、ここでも一つあそこでも一つと抜いていけば、将棋倒しのように、一つの崩壊が別の崩壊を招き、思わぬ場所まで崩れて、自身の重みで結果、総崩れとなってしまうのだ。そうなると人は」
宮は、そこまで言うと言葉を切る。
宮は溜め息を吐くと「其の方に任せていては、皿が失くなるな」と、呆れたように言った。
一度落とした茶碗を拾って銀丸は、宮の話を聞きながら手に持っていたのだが、ただ持っていただけにも関わらず、またしても茶碗を落としてしまったのである。
すかさず宮が力を使って受け止めたからよかったようなものの、本当ならばこれで二枚、皿が割れていた筈だ。
「申し訳ありませぬ」と銀丸は言って、手を使うのが悪いのかと、今度は手を使わず力を使って、茶碗を水切りカゴに戻そうとした。
宮がそれを制して、タオルで手を拭ってから茶碗を拾って、水切りカゴへと入れる。
そして宮は厳しく、銀丸に言いつけた。
「力は、できるだけ使うな。ここは人界。そして、我等は唯の人だ」
良いなと宮に念を押され、銀丸はハッと短く答えた。
本当は、力を使わずともよいと言われて、ホッとしていたのである。
この銀丸。
変化が苦手なように、術を使うのも苦手であった。もし銀丸に力を使わせていれば、もう一枚皿が割れたことだろう。
宮は銀丸に話をしながらも、まな板や包丁を洗う手を止めていなかったし、洗剤の泡を使って、冥府の様子と人界の様子に目を配るのも忘れていない。
あまつさえ銀丸が失敗せぬよう、手を貸す余裕まである。




