表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/312

縁起堂 17

 宮の言葉をずっと考えていた銀丸しろがねまるは、不意に名案を思いついた。

「暗示にかけて、全てなかったことにすればよろしいのでは?」

 名案と思ったのは、銀丸だけである。

 

 宮は溜め息を吐きたいのを堪えて、

「この事件を知った者全ての、記憶を抜くというのか。どれだけの者が、この出来事を知ったと思っているのだ?」と、言った。

 

 千人では利かないことぐらいは、銀丸にも分かる。

 無理ですかと銀丸に問われて「無理ではないがな」と、宮はいささか誇りを傷付けられたような言い方をした。


 宮が言いたかったのは、それをするだけの必要性も重大性も、利点もないということだ。

 

 もし妖かしの姿で与之介よのすけが人に目撃され、それがニュースとなったとすれば、宮はためらわず、全てなかったことにするか、情報は偽物に過ぎなかったのだと人々に思い込ませたことだろう。



「絶対に必要とあれば、それもするが、今度の場合は力の無駄になるだけだ」

 

 新たな犠牲が出るたびに、人々から事件の記憶を抜きとっていては、与之介の尻拭いをして後手後手に回るだけで、何の解決にも繋がらない。

 宮がすべきことは、与之介の捕縛と、妖かしの仕業という事実から人の目を逸らすことである。


「人の噂は七十五日と言うが、ニュースを見た者も、そんな事件があったことなど、数日もすれば忘れてしまう。実際の関係者以外は、放っておいてもいちいち気にも掛けないであろうが、死んだ子供の両親まではそうもいくまい」


 宮は、銀丸が何も言わない内から、銀丸の疑問への解答を与えてやるのも忘れなかった。

「初めから子供がいなかったことにすれば、彼等のほんの僅かでも子供に関わる記憶が消えることで、全ての記憶までなくなってしまうのだ」


 銀丸は「はぁ」と気の抜けた返事だけ返して、神妙な顔で宮に、

「何か私で、お手伝いできることはありませんか?」と、聞いた。

 

 宮はもう、まともな会話を銀丸と交わすのは無理だと諦め、そこのタオルをとってと、実際的な指示を与えてやるだけにする。


 銀丸が、皿を拭く為の乾いた布巾を持ってくると、水きりカゴに入れた皿を拭いて、食器棚に仕舞うように言いつけた。

 

 銀丸はホッとした顔になり、家事は母から仕込まれておりますと言って、己が先ほど使った御飯茶碗を手にとった。


 茶碗などは、客用に余っている物がなかったので、この家の主の物を借りている。

 銀丸は茶碗をぎこちなく布巾で拭いていたが、アッと思った時には遅く、手を滑らせて、茶碗を床に落としてしまった。


 茶碗は床に叩きつけられて粉々に――ならず、床の上、十センチで止まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ