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縁起堂 16

「昔であれば、法師や陰陽師が多くいて、目にあまる妖かしは、彼等が始末したものだった。中には一方的な殺戮もあったが、まあ、それはさておいて。そもそも目玉や睾丸を食すと言うのは、人界の河童どもが始めたことだ。河童は尻子玉を抜く――尻子玉とは、肛門の中にあって、これを抜かれると人は死ぬと昔の人間が思っていたからなのだが――そんな説話として、河童の所業は伝えられている。溺死は、古くであれば河童の仕業と思われていたが、今の者達は考えだにしないだろう」

 

 宮は、スポンジに食器洗い用の洗剤をつけて、軽く揉んで泡立てた。

「もちろん、河童の所為だと分かるのはまずい」

 

 

 宮が皿を洗い始めるのを見て、ようやく銀丸は「そのようなことは、私めがやります」と言ったのだが、今更遅かった。

 宮は「いいのだよ」と、見事な手さばきで皿を洗っていく。

 

 銀丸は、手を出すこともできずに、宮の側に突っ立っているだけであった。



「人間は、迷信だと言って、妖かしの存在を頭から否定しているような愚かぶりで、案ずることはないかもしれないが、冥府の者の仕業と知れることは、決してあってはならぬのだ。冥府へと人が流れ込んでくるのは、絶対に阻止しなければ」

 宮は、そう言いながら指で輪っかを作ると、石鹸の皮膜をフーッと吹いて、シャボン玉を作った。


 一つできると、もう一つ。

 また一つと宮は、シャボン玉を作っていく。別に、遊んでいる訳ではない。

 

 計十個のシャボン玉には、少しぼんやりとはしているが、冥府や人界の光景が映し出されているのである。


 この時期の日本は、梅雨時分で湿度が高い。

 冥府と比べれば、乾燥し過ぎと感じられるが。

 それでも冬場よりは空気に水分が含まれているので、何とか利用せぬ手はなかった。 

 

 執務の間で宮の代わりに、書類整理を行うたかむらの姿。火ノ宮の詮議の間では、火宮が詮議の最中である。

 御書蔵ごしょぐらの再建現場では、御書頭が指示を飛ばしていた。

 

 青辰あおたつによる被害が出た邑の陣頭の指揮は、外宮がいぐう頭がとることになったようだ。

 菅公かんこうは火ノ宮の執務の間で、書き物をしている。

 

 冥府の方は、まだ朝である。

 宮のいない一日が、ようやく始まったばかりであった。

 

 人界の水呑童子すいてんどうじ達も、宮の指令を遂行すべく頑張っているようだ。

 まさか宮が見ているとは思ってもいないだろうが、他者が見ていてもいなくとも、誰もが己のできる精一杯をやっていた。

 

 それと引き換えて、自分の身を銀丸も考えたようだ。

 宮に食事を作らせ、後片付けまで任せ。目覚めるまでにも迷惑をかけ倒しておいて、名誉を挽回する機会が一つもなかった。

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