縁起堂 15
与之介が捕縛されたのは、今から千二十二年前のことである。神名帳に封じられても、その性癖は何ら変わっていないものと見える。
与之介は、また新たな罪を重ねた。
これが、子供を食い殺したと言うなら、罪には問われない。
生きる為に食うことは、当然のことだからだ。
宮は、柱にかけられている縦長の鏡を振り返ると、放ってある水呑童子を呼び出した。
凉れた金文字で何かの店の名前が描かれた古臭い鏡に、水呑童子の最高責任者に任じられた衛士次官(頭の次の位)の顔が映り、銀丸は驚いた。
「衛士次官。区域番号五番の中央部に残留妖気があるか、それが与之介のものと確認でき次第、二ノ川一帯と、上野の緑地を重点的に捜索せよ。浚って不在が分かれば、結界を張って出入りを塞いでおくこと。できれば水界を閉じて、包囲網をせばめたい。二ノ川を根城にしている水妖で、使えそうな者の力を借りるか、駄目でも、与之介の目撃情報だけでも募ってくれ。結界を張る作業は全員で当たれ。それが済めば、半数が与之介を、残り四体の行方の確認に半数を割り振るように」
衛士次官は、ハッと宮の言葉に応えた後、
「人界で使えそうな者がいるとの話を聞き、水呑童子の一夭には、その妖かしを探させております」と、言った。
宮が「うむ」と頷くと、衛士次官は一礼して姿を消した。
驚いている銀丸に、宮が笑いかける。
「ちょっと細工をして、水鏡の代わりにした。少しでも便利を良くしなければ、とうてい三月では捕縛できぬからな」
宮は、便利が悪いことだと呟いているが、決して面倒がっている様子はない。
どちらかと言えば、その状況を楽しんでいるようである。
宮は、洗い物を片付けに台所へと立った。銀丸が、それを追う。
「与之介は、これからどうするでしょう?」
宮は、エプロンの代わりに、腰にタオルを巻いた。
この家には、小さい子供がいないので、子供用のエプロンなどなかったからだ。
「四時三十分頃の犠牲者が、一番最初の犠牲者とすれば、そろそろ二人目の犠牲者が出ているかもしれぬな。与之介は、一日に五つから七つ、百々目鬼達の目玉を抜きとったという話だから。但し人間には、目玉は二つしかないから、三人ほどの犠牲者を一日に見るべきだろう。もしかしたら追っ手を怖れて、極力動かないかもしれぬがな」
宮は洗い場の前に踏み台を持っていき、その上に昇ると、蛇口を捻ってスポンジをよく手で揉んで洗った。
「何にしろ、人界ならば獲物はとり放題だ。無力な百々目鬼に劣らず、人間も弱い部分がある。今の人間達であれば、特に怖れるにあらずだ」




