縁起堂 12
宮は、電話器の横にあったメモ帳と鉛筆を銀丸に放ってやったが、その時には既に、ニュースは読み終えられた後だった。
――警察は、殺人と事故の両方の線で、捜査に当たっていますが、詳しい情報は、まだ寄せられていないとのことです。
銀丸は鉛筆を握ったものの、一言もメモすることができなかったようだ。
宮が「必要なことは覚えているから大丈夫」と、銀丸を慰めてやり、茶箪笥に載せてある地図をこちらにくれないかと頼んだ。
銀丸は、立ち上がるのを面倒がって膝立ちで、茶箪笥の上に置いてあった地図をとると、卓袱台に載せた。
宮は地図を片手に、もう片方の手で、まだ湯飲みに残っていた冷えた茶を、卓袱台へと撒いた。
租喪をしたのではない。
銀丸は寸の間、宮が何をする気なのか分からなかったが、それは、歪んだ楕円の形をしたお茶の上に宮が手をかざすと、絵柄が浮かんできたことで理解することができた。
水の中に浮かんで見えるのは、東京近辺を描いていると思しき地形図であった。
とは言うものの、人界にあるものとは随分違う。
冥府の、最新の人界地図だ。
人界に住む妖かしの勢力分布と、妖気の溜り易い場所、妖かしの好む場所が、一目で分かるようになっていた。
人界にある地図は、目に見えるものだけを描いているが、冥府の地図には人の目には見えぬ真実の姿が描かれている。
宮は、人界製の地図と冥府製の地図を見比べていたが、すぐに調べはついたようだ。
宮は、今後の方策を考え始めた。
銀丸が、それを邪魔するように、
「事故で、目がなくなることがあるんですかね。それはどのような事故なんでしょう」
と、間の抜けたことを聞いた。
もちろん銀丸は、とことん真面目である。
このようなところでも冥府と人界の、世界観のギャップがあるのかもしれない。
人界で、為政者がすぐと言えば、その内のことで、遺憾に思うと言えば、面倒なことになって嫌になる、といったぐらいの意味しか持たないことを、人々はよく知っている。
殺人か事故という言い方は、殺人でなかった時の言い訳に、始めからつけてあるだけのことであった。
宮は、それを知っていた。
だが宮は、銀丸の言葉に律義に返事を返してやる。
「百々目鬼の子が、睡眠中に誤って目を飛ばして失くしたとかで、失せ物届が出ていたことがある。普通であれば、目を飛ばしても景色が見えるのだが、その時は失くした目から映像は送られてこなかったのだ。調べてみると、茂みに引っ掛かっているのが見つかって、目玉は無事、持ち主に返された」




