縁起堂 6
「それは違う」と、宮が嗜める。
宮は、自分の身内を庇って言っているのではなかった。
銀丸の認識が、多くの火宮に対する水ノ宮の水狐の認識であり、それが誤りであることは宮がよく知っていた。
誤りは、正さねばならない。
「姉上は、宮の奥で書き物をするより、外で身体を動かす方が好きなのだ。私とは正反対であるな。私は、書物に囲まれて字を書く方が好きだから」
宮は、大抵の者が嫌う内仕事を、とても楽しいことのように言った。
宮にとっては、お宮にこもって書類整理に追われている時間こそ、至福の、そして充実した時なのである。
書類整理をしている時の宮は本当に満足そうな様子をしているが、捕縛の際、騎乗である白魔の背に乗って、水神刀を握っている時の宮は、重苦しい表情をしている。
それと引き換え、赤熊を駆る火宮の表情の明るいこと。
火宮は、喜々として捕り物に向かう。
これこそ天職とでも言うように。
宮は銀丸の目を見ながら、
「姉上は、どのような捕り物であっても、先頭立って捕縛に向かうのだから、遊んでいるとは言えまい」
少し、叱るように言った。
銀丸は、宮に軽く叱られて「はぁ」と意気消沈した様子を見せたが、それだけで諦めずに、しかしと宮に反駁を返した。
「それはともかく、火宮様がお忍びでお宮を抜け出す為に、臣下は頭を悩ませているのは、どうなのですか?」
拗ねたようにそう言った銀丸に「それは確かだな」と、宮は苦笑した。
宮は、真面目な顔になって、
「それに、身代わりにさせられる者が可愛そうでもある」
と、本気で咎め立てる声で言った。
銀丸に対して言った訳では、むろんない。
火宮は、お宮に身代わりを置いて、ちょくちょく偵察に出かけることがある。
この偵察は、冥府の者達の暮らしぶりを、その目で確かめることが目的とされていた。
目的は崇高かもしれないが、数日からお宮を空けられる火ノ宮の火狐達にしてみれば、火宮の不在はたまったものではない。
火狐達は当然ながら、火宮に偵察旅行など認めていない。
そのため火狐に止められないよう、火宮は自主的に、つまり勝手に偵察行に出かけてしまうのだ。
と言っても、火宮一人ではなく供を連れていくのだが、供役を仰せつかるのは、侍従頭の玄孫であった。
この玄孫というのがまだほんの子供で、登用試験を受けられる年齢にもほど遠いのである。
見た目で言えば八つか九つほどなので、火宮と同じ年頃に見えた。
火宮は子供ではないが、しかしそれにしても危なっかしい道行きであるとしか言えない。




