冥府 脱書 10
「藤吉郎の居場所が、分かりましてございます」
火宮は、飲み終えた器を、タンと音高く盆の上に乗せた。
宮は立ち上がって、水神刀を腰に下げる。
水鏡が現れ、現場で指揮をとっているらしい衛士(次官)が、自ら報告を行った。
「帆山樹石洞の方に。悪党連の烏天狗連と共に、こもっております」
火と水の両宮が、俄かに慌ただしさを増す。
頭達は、それぞれの部下と連絡をとりあい、様子を確かめ合う。
殿上の間の外で控えていた侍従達が、宮の着衣に乱れがないか確かめる。
「目をつけていた通りだな。烏天狗連をとり込んだか」
緩めてあった首括りの紐を侍従が止めやすいよう首を上げながら、宮が衛士に声を掛けた。
衛士次官は、ハッと短く応え、
「頭目は、烏天狗の勝にございます」
火宮も同じように、着衣を侍従達に整えさせていた。
火ノ宮の侍従は、侍従頭以外は全て女性だ。
火宮は侍従に身を任せながら、
「規模は、中規模。勝はまだ若い。功を逸ったな」と、呟いた。
宮もそれを受けて、
「深峰の親玉は、静観を決め込むだろう。更なる十妖が揉め事を起こせば、連中もここぞと出張ってくるだろうが、あとの五体は人界だ」
火宮は、赤熊の手綱を握りながら、最後にこれだけ言った。
「悪党連の雑魚どもは、我ら火ノ宮に任せてもらおう。藤吉郎の捕縛は、そち自らがせよ。水狐は、人界行きの支度にかかれ」
宮も、その意見に賛成した。
宮は白魔の手綱を引いて、殿上の間から出るまでに言わなければならぬことが沢山あって、警吏頭と侍従頭から、銀丸のことを聞く余裕はなかった。
その時であれば、まだ二夭も真実を話したかもしれない。
真実というには、あまりにもお粗末な内情を。
だが宮は聞かなかった。
代わりに宮は、己が戻ってくるまでに整えておくべき事柄を、それぞれの頭達に細かく指示を与え続け、結局それは、白魔の背に乗って外に飛び出す寸前まで続いたのだった。
宮は、ようやく言うべきことを言うと、白魔を駆って天狗の藤吉郎の捕縛に向かったのである。
縁起堂 一階 台所と続き間になった居間
縁起堂は、創業から四十五年を数える、古い駄菓子屋である。
店自体は四代も続いており、今の主人は五代目に当たるのだった。
縁起堂が駄菓子屋となったのは、今の店主の父親の時代からである。
現、主人の祖父が店を切り盛りしていた頃は、縁起堂は駄菓子屋ではなく饅頭屋であった。
それが戦争で物資がなくなったために一度は店を畳んだものの、日本が復興するのに合わせて、縁起堂は駄菓子屋として新たな人生を、歩み始めたのである。




