冥府 脱書 9
片や兄として、片や上司として銀丸をよく知る二夭が、声を合わせてならぬと言ったことには、むろん訳がある。
ただし他の侍従達や、両宮には知りようもない訳であった。
両宮は声を合わせて「ならぬことはない」と、反駁した二夭に返した。
両宮の声は、見事に一つに合わさっていた。一夭の者が言ったようにしか聞こえない。その後の言葉は火宮は宮に譲って、自分は口を閉ざした。
宮は、その場にいる全員に向かって、高らかに宣言する。
「十妖を全て捕縛してから、銀丸には追って更に罰は与える」
火宮は、宮の言葉にそれでいいと言うように頷いた。
宮の言葉を、あますことなく書記係は書き留め、六頭達もその沙汰に異存は挟まなかった。
ただ、侍従頭の金丸と警吏頭だけが、まだ納得のいかぬ顔をしていた。
宮は、それが気になった。
火宮の前でなければ、詳しく彼等から事情を聞きたいところである。何がならぬと言うのか。
しかしこの場合、償うことは当然と言えた。
銀丸が賄賂を受けたり、よからぬ企みを持っていたと言うなら、宮とて蟄居を命じ、更生の機会は違う形で与えようとした筈だ。
何がならぬのかは、その後もはっきりと金丸と警吏頭の口から語られることはなく、結局宮は、自分自身の身をもって確かめることになったのだった。
火宮は、指を三本出すと、水宮の方に突きつけた。そして厳しい声で、
「三月。三月で、全ての妖かしどもを捕捉せよ」と、命じた。
その言葉に、宮は一瞬でありとあらゆる算段をした筈だ。
五体の妖かしを捕縛した時にかかった時間から、今回の捕縛にかかりそうな時間を割り出し、探す為に必要となる時間、人界での制約の多い探索、そして三月の間にこの冥府で起こるであろう犯罪の数と、己の業務のこと。
色々考えた末に、宮は難しい顔で唇を噛んだ。火宮には、宮の苦渋の中身を理解するのもたやすいようだ。
火宮は、宮を安心させるように、自信を持って請け合う。
「その間、火ノ宮が全力持って、冥府の治安維持に務めよう」
宮は、一瞬浮かびそうになった表情を慌てて消し、それならばとしっかりと火宮に頷いて見せた。
宮には、三月で妖かし全部を捕縛する、自信があるのだろう。
二夭の出した結論以上に、いい方法はない。
一夭が人界に下りて十妖を捕縛し、残った方が全力で冥府を守る。これが、一番の方法だ。
「姉上、その話は、あとで詳しく」
火宮は「うむ」と頷いて、飲み物に手を伸ばした。
不意に水ノ宮の衛士頭が、パッと顔色を変えた。
耳に手を当てるようにしていたが、部下の衛士からの報告を、大きな声で知らしめる。




