冥府 脱書 8
べつに対抗心など燃やしている訳ではないが、彼等は心から自分の仕えている主君を敬愛しているのであった。その心の表れと、見ることができる。
火ノ宮の方も、六人の頭が並んでいる。
両宮の頭達は、別に双子ではないから、年齢も見た目もまちまちである。
火ノ宮の侍従頭は、矍鑠そのものの七十過ぎの老人であった。彼は、同じ侍従頭である水ノ宮の男の様子を、見苦しい態度だと思っているようだ。
他の者達には、同情の眼差しが窺える。
問題の中心人物の銀丸は、侍従頭の金丸の弟なのだ。心が乱れるのも、その先行きを案じるのも無理はない。
宮は、己に聞かれたのではないが、それでも何か言いたそうにした。が火宮は、言葉を挟む隙を与えなかった。
「また後だな。記憶は、封じ込めた妖かしが捕縛されれば戻る。事情によっては、情状の酌量もあるが、とにかく大罪であることに間違いないからな」
火宮はどこか、面白がっているような口振りであった。
火と水の両宮は、見た目はそっくりではあるが、性格は違う。そう、まるで水と火のように。
智と徳の夭が水宮ならば、火宮は勇と策の夭である。
為政者である限り、敢断な処置もとらねばならない。厳しい裁量も、時に情を優先させることが大切なぐらい、同じく必要とされるのである。
宮は恩情を与えることもやぶさかではないだろうが、火宮がどう考えるかである。
両宮は、難しい詮議の場合、二夭でよく協議して結論を出す。
両極端な意見とすれば、その結論がどちら側に傾くかが、火宮の胸の裡の方が侍従頭の金丸には問題であったのだ。
宮は、飲み物の器をとって口を湿らせた。そして、
「いえ、己が犯した罪は、己で償うのが一番でしょう」
と、当たり障りのない口調で言った。
次の瞬間、二夭の宮の視線がパチリと合った。
身動ぎ一つせぬ様子は、本当に鏡を見ているようである。
火宮には、宮の端的な言葉も、無理なく理解できるようだ。
ごく当り前な口調で、火宮は受けた。
「連れていくか?」
それに、宮も自然な様子で頷いた。
二夭のそのやりとりから、少し遅れて反応した者がある。
「な、なりませぬ」
そう言ったのは、水ノ宮の警吏頭と侍従頭だ。同時に響いた声は、不協和音を奏でたに過ぎない。
警吏頭と侍従頭は、互いに顔を見合わせた。
場合が場合でなければ、二夭とも苦笑していたかもしれない。しかし、今は笑っている時ではない。
宮はつまり、銀丸を連れて人界に十妖を捕縛しにいき、それを銀丸にとっての償いとさせると言っているのである。




