冥府 脱書 7
青辰とおりんの捕縛が済んだあと、火と水の両宮は、それぞれのお宮に戻って、天狗藤吉郎の行方が掴めたという知らせを待って、控えていた。
その間に、これからの方策を決めなければならなかった。
やれることは全て、既に手を打ってある。
十妖の脱書に関係があるらしい警吏の水狐の銀丸は、半壊した御書蔵の中で失神しているのが見つかった。
十妖どもの悪気に当てられたらしく、暫く目覚めそうになかった。
目覚めるまで待つのは時間の無駄と、火と水両宮立ち会いの元で、内視鏡により銀丸の記憶を探ったのだが、銀丸に脱書の起きるすぐ前後の記憶はなかった。
十妖の誰かが、銀丸の記憶を抜きとったのだ。
そんな芸当ができる者なら、まだ捕縛されていない者の中にいる。何か理由があって、銀丸の記憶を抜いたのだろうが。脱書の手口を隠す為に違いない。
その通りで、いたずらに推測を重ねるばかりで、両宮にも今度の脱書で行われた手口を見極めるのは難しかった。
それでも、銀丸が賄賂を受けとったとか、目的があって水ノ宮に潜り込んだという事実はなかった。
それだけは、銀丸の一族の者にも救いと言えよう。何らかの事故が起きたと考えられるからだ。但し、それとて決して名誉なこととは言えなかった。
もっとくれと菓子をねだる炎虎の頭を押して、火宮はもうないことを分からせた。
緊張した部屋の中、炎虎だけが呑気そうにしている。
白魔の方は、宮の前だから大人しくしていたが、炎虎の気楽そうな様子に苛立ちを感じているのか、ピクリピクリと耳を動かしている。
宮は、白魔の首に手を回して、落ち着かせようとしていた。
火の宮は、宮の言葉に「まぁな」と頷いたものの、
「とは言っても、水呑童子を大量に送り込む訳にも行くまい」と、難しい顔で言った。
「我らのどちらかが、人界に行くしかないであろう」
宮も、難しい顔で答える。
火宮はそれを聞くと、深く背もたれに身体を預けて、自分と瓜二つの姿をした男童を見つめた。
「失態はそちらの責任にあれば、そちらが出向くのが筋とも思えるが」
火宮の声には、水宮にない冷淡な響きがある。
青い顔をして、今にも卒倒しそうな様子で控えていた水ノ宮の侍従頭が、堪えきれなくなって口を利いた。
「火宮様、銀丸への処罰は」
水ノ宮の侍従頭は、己の主君ではなく火宮の方に尋ねた。
火宮に聞いた理由はすぐに分かるだろうが、水狐や火狐達は、自分が仕えている相手を宮様、もう一人は水のまたは火のと呼び分けていた。
どちらも、己の宮様が一番と思っているところがある。




