冥府 脱書 6
だからこそ冥府の者は、人と共存することを望まない。
冥府は冥府、人界は人界でそっとしておこうとする。
しかし人界であっても、中には妖かしの好みに合う土地、または海域というものがあった。
広大な土地、そして人跡未踏的な人の入り込まぬ土地が、それである。
人界での言葉で言えばユーラシア大陸、中でも中国の雲南省辺り。
ここには古くより、水と火の監視所が置かれているぐらいだ。
穴抜けするとすると、まず大抵の妖かしがここに向かう。
その為、目を光らせておく必要があるのだった。
あとは、妖気の集まりやすい場所。
人界においてはイギリスの特に北部や日本、バリという名で呼ばれる場所は、妖気が溜まりやすい地点となっている。
十妖が向かったのも、てっきり中国と思われた。
中国であれば、まだ捕縛もやすい。
監視所があるし、捕り方達にも馴染みが深かった。
イギリスであれば、土着となった妖かしどもが手を貸してくれる。そこの妖かし達には、閉鎖的な部分がある。
狭い土地で、暮らしているからだろう。
新たに訳の分からない犯罪者が逃げ込んできて、自分達の生活がかき回されるのを好まない。
穴抜けした者を捕まえて、向こうから冥府に送り返してきたことすら以前にはあった。
閉鎖的なイギリスに比べ、バリは開放的である。
捕り方と犯罪者、どちらが先に土着の妖かしを味方につけるかで、全く事態が変わってくるのである。
なぜか。
バリに住み着いた妖かし達は、人間達に神と崇められている。
そのため妖かしどもは、その土地で彼ら独特の価値観を培うに至っていた。
彼らを下手に扱うと、邪魔をされる事になり兼ねない。
反対に、土着の妖かしの助けが得られれば、あとの捕縛にも支障はきたさない。
犯人が向かうなら、広大な中国か開放的なバリかと相場が決まっている。
しかし十妖が向かった先は、中国でもバリでもなかった。
「妖かしどもが下りたのが、中国ではなく、日本であるとはな」
赤熊、名前は炎の虎と書いて炎虎である――に、宮は手ずから菓子を食べさせてやりながら、そう言った。
顔も口調も難しい。
それを受けて、鏡のこちら側の宮も難しい顔ながらも、
「しかし、五体が一つ所にいるだけましと言えよう。あちらに一つ、こちらに一つでは、探すのも骨であるからな」と、言う。
今、言葉を発されたのが水宮で、炎虎を侍らせているのが火宮である。
声もそっくりなので、唇を見ていなければ、どちらが話しているのか分からない。




