冥府 脱書 4
猫又のお吉、通り名をお吉桜。
これは、不老不死の妖かしの肝を食えば、己も不老不死になれると愚かな考えにとりつかれ、不死の妖かしの肝(内臓)を生きながら食った咎で、捕らえられている。
犯行の現場に、桜の花弁のような血模様をペタペタと残しておくことから、お吉桜なる通り名がつけられた。
この猫又のお吉、火と水の宮の二夭の肝さえ狙っていたと言うのであるから、全く世にも恐ろしい妖かしである。
しかしお吉桜が甦ることはもう決してないので、夭々もこれで枕を高くして眠れるというものだろう。
十妖の中で、女の妖かしは、猫又のお吉の他に、雪女郎のおりんがいた。
この雪女郎のおりんは、まだ絵となっておらず、神名帳から抜け出していた。
がしかし、雪女郎のおりんは雪嵐を連れているので、見つけるのは容易である。
おりんは、辰が雲を集めて雨を降らせたことで、雨を避けなければならなくなってしまった。
雪女郎は、雨を嫌う。
普段であれば高い湿度を利用して、己の体の周囲だけ雪で包んでいる。嵐となると、雪が吹き飛ばされるので、嵐を雪嵐に代えて、雨をやり過ごすのであった。
おりんがいるのは、雪嵐の中心だ。
そのため水呑童子は、雪嵐さえ見つければよかったのである。
雪女郎のおりんは、ずっと水呑童子が見張っていて、辰の捕縛後すぐに駆けつけた火宮によって捕縛された。
おりんを簡単に捕らえることができたのは、だから青龍の辰のお陰と言えなくもない。
ただ、天狗の藤吉郎だけは、まだ足どりがつかめていなかった。
残りの五夭は、青辰こと青龍の辰の騒ぎに乗じて、うまく人界に逃げてしまったのだ。
穴抜けは、早い時期に行われている。しかも五夭とも、同じ間道から抜け出ている。
人界に通じる道は間道と呼ばれていて、見張りの衛士が立っている。十妖脱書の報は、すぐに彼らにも届き、厳重なる警備が敷かれていた。
一体であれば、足止めぐらいはできたかもしれないが、五体全部となると、とうてい衛士の敵うところではない。
間道の見張りについていた衛士の火狐は皆、殺されていた。
幾つかある間道は、火と水が手分けして守っている。
たまたま、穴抜けの場所として選ばれた間道を守っていた衛士達は、まことに不運であった。
冥府にある人界に繋がる間道は、幾らかを残して塞がれている。
新たに間道を開くことも可能だが、あちこち勝手に作られると、中には間違って穴から落ちてしまう者も出てしまうことになる。
誰にでも間道が開けられる訳ではないが、とにかく、間道を設けることも、間道を通ることも、冥府では禁じられていた。
この前なども、勝手に間道を作った為に問題が起きている。




