冥府 脱書 3
問題は、火と水の宮が、一両日も(竜馬で)距離が離れていることにある。
会おうと思っても、そう簡単に行ける距離ではなかった。
それに二夭には、決して疎かにできない務めがある。
それでも必要とあらば、合わせ鏡を使って、これこの通り、会うことができるのであった。
夜中。
十妖の封印が解けて以来、火と水の宮は、上を下への大騒ぎであった。
慌ただしくはあっても、決して統制が乱れることはない。
宮が、的確で迅速な指示を与えていたので、それぞれがすべきことを理解していた。
青龍の辰が呼び寄せた黒雲と嵐は、辰が捕縛されると同時に雲散霧消した。
雲が晴れたところで、冥府では青空が広がるということはないが、それでも今は、普段通りの薄曇りの空があるだけである。
さて、その青龍の辰のことである。
神名帳から抜け出た後、嵐を呼び冥府の調和を乱した青龍の辰を捕縛するのに、四半時近くもかかってしまったのだった。
この青龍の辰は、手のつけられない荒くれである。
己の力に酔っており、嵐を起こし、乱暴狼藉の数々を働いた為に、今から二千五百年前、火と水の両宮が力を合わせて、この辰を神名帳に封じ込めたのであった。
二千五百年の時は、辰に自省を促すことにはならず、怒りを増大させる結果となった。
もし辰に、初めから反省するほど殊勝な心がけがあれば、永久犯である凶悪犯罪者として、十妖の一に数えられることはなかった筈だ。
それでも以前は、捕縛までに十ケ月かかったことを考えれば、随分妖力は落ちていたと言えた。
あと数百年もしないうちに、絵になる筈だった。
辰は再び神名帳に封じられて、今度こそ二度と抜け出さないよう、厳重に見張られている。
この辰のお陰で、冥府のあちこちに損害が出ている。
水ノ宮の建物にも、被害があった。
御書蔵さえ無事であれば、建物の被害など如何ほどのこともない。また建てればいいだけのことである。
しかし、失われたのが命となるとそうはいかなかった。
辰が、尾を打ちつけた時に弾け飛んだ瓦礫で、幾つかの邑が半壊。
怪我夭だけでは済まず、死者が出てしまったところもあった。
この後始末だけでも頭が痛い事態であるのに、さらに悪いことにも、脱書したのは、青龍の辰だけではないのである。
もっと困ったことに、十妖のうち合わせて五体までが、穴抜けを行って人界に逃げたことの調べがついていた。
人界に向かわなかったのは青龍の辰と、天狗藤吉郎、雪女郎のおりんの三夭だけである。
天狗の藤吉郎は、火と水の水呑童子と火呑童子が今、行方を捜しているところだ。
あとの二夭、猫又のお吉と貉の文蔵は、既に妖力をすっかり抜かれて絵となっていた。
貉連の親玉として悪事で鳴らした文蔵も、敢え無い最後を遂げた訳である。




