冥府 脱書 2
その宮と対するように、数畳の広間を挟んで、全く同じ造りの殿上の間が向き合っているのだ。
欄間と言い御簾と言い椅子と言い、寸分違わぬ。
まるで、鏡を見ているようであった。
椅子に座っているのも、括袴に覆い靴に袂を縛った狩り装束の童子と、代わりない。
眉の形、鼻の形、唇の大きさと、どれをとっても瓜二つである。
但し、髪は角髪ではなく、曲げ髪(女髪)に結ってあった。
一番の違いは、二人の童子の足元に踞っていた獣であろう。
一頭は、宮の騎乗である白魔。
白魔は、その名の通り全身が白い猫科の動物である。白い獅子のようだが鬣はなく、代わりに胸にフサフサとした長い毛が生えている。
対して、もう一方は燃えるような赤い毛を持つ、白魔に比べると随分ずんぐりとして見える獣だ。こちらは、赤熊と言う獣である。
これは、並み外れて旺盛な食欲を持っている。それとともに、同族に激しい敵意を燃やすという性質があった。
他の種族に対してはとても友好的で、友好的と言うより無防備そのものの態度をとる。
但し、同族となると、二列になった(鮫のような)鋭い牙で、どちらかが死ぬまで闘い合うのだ。食べ物をとられると思うのだろう。
そのため赤熊は、同族内で殺し合いをして、今では冥府では二頭しかいなかった。
白魔に負けず劣らず貴重ではあるが、赤熊はその食欲ゆえ、一頭を養うことはできても、二頭は無理だ。がために、増やすことは諦めざるを得ないのである。
この赤熊、白魔と違って持久力がない。ただ、俊敏である。
姿から言えば、すらりとした体躯の白魔の方が機敏そうに見えるが、逆であった。
この二頭しかいない内の一頭の赤熊こそが、水ノ宮と並び称される火ノ宮の騎乗なのである。
よくよく見れば、台に置かれた剣は火炎刀で、前垂れに縫いとられた紋章も、こちらは水炎ではなく火炎である。
ここに坐わす方こそ、水と対をなす、火ノ宮の火宮司様その人である。
火宮は、八つか九つほどに見える女童であった。
水宮と区別がつかないほど似ているのも道理で、火と水の両宮は双子である。
この二夭が冥府の統治者で、それぞれ火と水の宮をうまくとりまとめているのだ。
しかし、両宮が顔を合わせられることは、滅多とない。
公式の儀式や、大罪夭の詮議を行う時ぐらいのものである。
そのような時であっても、顔は合わせていても、実際に会っているとは言えない部分もあった。仲が悪い訳では、もちろんない。
何と言っても、たった二夭しかいない身内である。




