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冥府 脱書 1

「我等がしなければならぬことを、其の方の口から申してみよ」

 銀丸しろがねまるも、水狐すいこの端くれに相応しく、少し後ろに下がってから、深く平伏した。

十妖じゅうようを、捕縛することにございます」

 宮は、重々しく頷いた。

 

 銀丸も、これで一応は、水狐としての本分は持っていることが分かった。

 銀丸が顔を起こすのを見計らって、宮は指を三本出して、それを銀丸に突き出した。

三月みつき。三月で、全ての妖かしどもを捕捉する」

 宮は、銀丸が気を失って人界で目覚めるまでに、冥府でどのようなことが起き、どのような決定が為されたかをまず、銀丸に聞かせることにした。


 

 水ノ宮 内殿ないでん 殿上てんじょうの間

 朝、巳の刻に近い頃。決して日は昇らぬ為、薄暗い。

 

 内殿にある殿上の間は、宮の接見用の広間である。

 殿上の間は、客を迎える時、儀式の時、臣下が謁見の栄を賜る時に用いられる。殿上の間は、百畳(冥府式換算で)からなる広間であった。

 

 宮がわす御座所は、床より一段高くなっている。

 御座所を囲むように、細かい彫り物をした欄間があり、そこから御簾みすが下げられていた。

 この御簾も薄い羅紗である。

 

 御座所の両側は、降ろした御簾で囲ってある。

 正面だけは、両端で紐で結わえてあった。まるで舞台の幕のような具合だ。

 それもその筈、何か事が起これば一瞬で閉じて、宮の身を危険から守れるようになっていた。

 

 宮が座る椅子のある場所だけ、更に一段高くなっていて、宮は足台を使って、椅子に座る。黒壇の椅子は、背もたれ部分と座る部分に、白貂の皮を張ってあった。

 椅子の左側には台があり、美麗な鞘に納まった水神刀すいじんとうが横たえられている。

 椅子の右肘の横の天板が引き出されており、その上に盆に乗せた飲み物と、口汚しの菓子が盛られた足付きの器があった。

 

 宮の座る椅子の斜め後ろ――左方である――には書記台がある。書記守しょきのかみ(御書係の中の役職名、他に図書守ずしょのかみなどがある)が、宮の言葉を書き留める為に控えていた。



 今、宮は、六人の頭達を傍らに控えさせて、殿上の間の椅子に腰を下ろしていた。六人の頭達は全員、水鏡ではなく実体で、この場に馳せ参じている。

 そのことからも、これがとても重要な席であることが分かる。

 

 皆、緊迫感の漂う顔をしている。

 六人の中で最も若いのが、三十半ばの侍従頭で、次は四十前後の衛士えじ頭、四十半ばの御書頭と続き、最も年配なのが、七十前に見える外宮がいぐう頭であった。

 しかし妖かしの年齢は、見た目通りではない。倍からの年を見るべきだろう。

 

 宮その人も、八つか九つの童子の形をしている。

 宮は括袴に覆い靴、袂を絞った狩り装束の、勇ましい姿であった。前垂れには、水ノ宮の印である、水炎すいえんの紋章が、金糸で縫いとられている。

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