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人界 10

 宮は、人界にも詳しい。

 宮は人界の書物をとり寄せ、また偵察を私的に送って、人界の調査をしていた。人界研究が、宮の唯一の趣味と言える。


「冥府で言えば鏡の代用だが、これは望む場所を見ることはできない」

 宮はテレビの主電源を入れると、リモコンを銀丸しろがねまるに持たせてやり、使い方を教えてやった。



 鏡は無論、人界での鏡とは違う。

 姿見とも言うが(人界でも姿見と言う言葉はあるが)鏡はどこでも、思う場所を見ることができる。

 

 もちろん人界での鏡と同じ役割もするので、己の姿を映して見るのも可能であった。 

 本来、冥府で鏡という時は、水鏡と言うのが正しい。

 冥府は湿度が高いとは先にも示したが、空気中にたっぷり含まれた水分が、物を映す役割をしているのである。

 妖気と水分が、十分充満した冥府だからこそ使える技と言えた。



 銀丸は、ポチポチとチャンネルを押して、テレビの番組を変えたり、音量を上げたり下げたりしていたが、結局辿りついた結論は、

「人界は、不便なものにございますね」だった。


「こんな大層な物を使わなければ、遠くの景色を見ることすらできないんですから」

 

 老夫婦の座敷に置かれた幾世代も前の古い型のテレビは、宮や銀丸からすれば、本当に箱のようなものであった。


 箱なら物を仕舞えるが、テレビは使っていない時は場所塞ぎに思える。

 もちろん技術の更新で、薄い物や投影型のテレビも開発されているが、冥府の鏡の利便性を思えばまだまだと言える。


「我らの住む冥府とは、違って当然であろう。人界には人界の理がある。それは其の方も知っておろう。妖かしには妖かしの理があるようにな」

 宮は上品に、湯飲みから日本茶を啜った。


 二人の間に、暫く沈黙が降りた。

 とうとう銀丸は、自分から口火をきった。

「あの……十妖じゅうようは」

「人界に」

 宮は、それに短く応える。

 

 銀丸は、馬鹿馬鹿しいことを、わざわざ聞いてしまったと思ったようだ。

 妖かしが人界に下ったのでなければ、人界に自分達がいる訳がない。

「私は」

 銀丸は居住まいを正すと、改まった口調で何か言おうとした。

 宮は、分かりきったことを、くどくどしく聞かされるのは時間の無駄と、銀丸の言葉を遮り、代わりに銀丸が言おう、または聞きたいてあろうことを先に言ってしまった。


「知っておる。其の方が気を失っている間に、記憶を調べたからな。其の方に、その時の記憶がないことは分かっている。十妖が抜け出たことだけは、分かっているのなら話は早い」

 銀丸は「はぁ」と、いささか気の抜けた返事を返した。

 

 しかし宮とて、銀丸に付き合っていられるほど暇ではない。

 宮は、水ノ宮の最高司令官らしく、威厳に満ちた様子で、銀丸の資質を問うた。

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