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人界 9

 そんなふうにすると、さすがは兄弟ということもあって、侍従頭の金丸くろがねまる銀丸しろがねまるも似ていると言えた。

 宮は、それを微笑ましいものとして受け止める。


「二人が、後のことは息子に任せて、喜んで温泉旅行に出かけてくれたのが、今日の昼過ぎのことだ。旅行の費用は、家を借りる手前もあって、こちらで工面した。水呑童子すいてんどうじや捕り方が、人界で動く時の為に、人界の貨幣は水ノ宮に揃えられているからな。但し、湯水のように使える訳ではないので、礼とは言っても僅かしか用立てることはできなかったが。元来、慎ましい人々であるので、まあつであろう」

 銀丸が、金は目眩しですかと言い出しそうだったので、蛇足だと思いつつも宮は、質問される前に言っておいたのだった。

 

 銀丸は、他に質問を思いつかなかったようだ。

「私の親にとっては、私こそ不肖の息子にございます。私が人間であれば、きっと今、宮様が仰られたような人生を送っていたに違いありません。こうしていると、ようやく家に帰ったような気にもなります」

 銀丸はそう言いながら、言葉通りの懐かしげな眼差しで、狭い座敷の中を見回した。

 

 銀丸が、つい先ほどまで人の姿を嫌がったり、人間臭いと不満げに鼻を鳴らしていたとは思えないほどの変わり身の早さである。

 銀丸は、単純と言って悪ければ、素直な性質らしかった。


 宮は、クスリと思い出し笑いを洩らす。

「其の方は、母上が苦手らしいな」

 銀丸は、バッと顔を赤らめて、動揺した様子を見せた。

「兄上が言ったのですか?」

「いや。其の方の寝言からな」

 宮は、フフフとおかしそうに笑った。

 宮だって、おかしければ笑うのである。

 

 銀丸には、それが珍しく映る。

 宮のことを、いかめしい人間だと思っている訳では決してないのだが、宮は笑ったりしないと、普段宮と接しない下級役夭(やくにん)達は、思っているようなところがあった。

 

 宮は、食事もしなければ眠らない(それらが不要な性質の種族と言う訳でもないのに)といった噂が、まことしやかに流れていたりする。

 

 銀丸は、自分が寝言でどのようなことを言ったのかが分からなくて「はぁ」と腑抜けた声を洩らした。


 銀丸が寝言で、家から追い出さないでくれと、夢の中で懇願していたことまでは、宮も言わない。

 登用試験にことごとく落ちていた銀丸は、母親から今度試験に落ちたら家を追い出すと脅されていたのだろう。

 試験には合格したが……。宮は、その考えから目を逸らした。



 銀丸は珍しそうに座敷を見ていたが、一つだけどうしても何か分からない物があったようだ。

 銀丸は指差して、宮に尋ねた。

「こちらの箱は、何でございますか。人界にある箱は皆、このような意匠なのですか?」

 宮は、指差された先を見ると、ああと笑顔になった。

「箱ではない、テレビと言うのだ」

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