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人界 5

 それがあるので、捕り方の中で選ばれた者が人界に赴いて、逃げた妖かしや、問題行動を起こす妖かしを、捕縛するのである。

 しかし、一度に沢山の捕り方を、人界に送ることはできなかった。



 妖かしの持つ気は、人間達に悪影響を及ぼす。

 それよりも、冥府が手薄になることこそ、問題であると言えた。


 更なる問題はと言えば、捕り方では手に負えない凶悪犯が、人界に逃げ込んだ時である。

 一度でも犯罪者の捕縛に失敗すれば、人界はいい犯罪者の逃げ場になってしまう。

 それこそ、火と水の両宮が怖れていることだ。


 宮様という呼称で呼ばれるのは、火と水の両宮だけである。

 つまり、銀丸が宮様と呼んだこの男の子は、冥府の最高権力者とも言える、水宮司その人であった。


 宮は、不老不死の妖かしだ。年をとることも、死ぬこともない。

 幼い子供のなりはしているが、生きてきた年月そのものとも言える深い叡知を秘めているとともに、情け深い情に厚い心を持っている。

 宮ほど、水ノ宮の最高責任者に相応しい者はなかった。

 この銀丸は、その宮に仕える一臣下でしかない。


 銀丸のような下っ端役人には、宮は雲上夭うんじょうびともいいところであった。

 銀丸の方は不老不死ではないが、同じく妖かしである。

 銀丸は、宮その人を前にした為に、暫くの間、脳味噌が動きを止めてしまっていた。

 これだけの長い説明ができる間も、宮は辛抱強く銀丸が回復するのを待っていたのだ。


 銀丸は、ようやく自分をとり戻したらしい。

 宮の前で平伏するかと思えば、銀丸はハタと気付いたように、パッと自分の顔を両手で挟んだ。

「ヒゲがない。しっぽが」

 膝立ちになった銀丸は、顔に当てていた手を今度は尻に当てた。

 自分の身体をあちこちと、見下ろすまではよい。


 宮は、とり乱している銀丸に声を掛けようとしたが、次の銀丸の行動には、さすがの宮も言葉を失くしてしまった。

 銀丸は、トランクスのゴムを引っ張って、前まで覗いている。


 宮は、ちょこんと正座をして、肌着の中に手を突っ込んであたふたと自分の身体を触っている銀丸を見ながらも、微妙に正視することは避けていた。

 銀丸の様子は、見苦しいことこの上ない。


「其の方も狐なのだから、変化へんげ術で人型をとるではないか」

 この銀丸は、狐の妖かしである。

 人界にもたくさん狐はいるが、変化できるものとなると、さすがに少ない。


 人界では、冥府から住み着いた狐の末裔がいて、それらが細々と変化術を守っているに過ぎなかった。

 しかし、冥府に住む狐なら変化できない者はいない。

 中には、老若男女問わないどころか、思うままに変化できる者もいる。

 変化は、狐だけの特質ではなく、妖かし全般が変化に通じていた。

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