冥府 14
対して、御書頭から話を聞く男の、能面のような白い顔が真っ青になった。
男は、貧血でも起こしたのか、そのままズルズルとその場に座り込んだ。
絨毯の敷かれた床の上に丸い手鏡が転がり、足元から御書頭が宮を見上げていた。御書頭は宮に「警吏とともに詳しく調べてから、またお話ししたき儀が」と言った。
宮が分かったと応えると、御書係は今度こそ消えて見えなくなる。
宮の支度は、すっかり整えられていた。邪魔にならないよう袖は縛られ、袴も括られている。晒しで巻いた脚絆の足は、鹿の舐めし皮の覆い靴で守られていた。
宮は、颯爽と男に近付くと、男の肩を抱いて介抱する。
「金丸。侍従の其の方には荒事は向かぬ。寝んで、私が戻ってきた頃、支度をしてくれればそれでいい」
金丸(冥府では金は鉄、真金・黒金を指し黄金を一文字で書くと金偏に黄になる)というのが、男の真名だった。
宮は男が、極度の緊張で貧血を起こしたのだと思ったのだ。この男は、堪えられないほどの緊張を強いられると、時折そうなることがあった。
宮は、侍従達に男を任せようとしたが、男は宮の袖を握って引き留め、今度はその場に平伏した。
何事かと宮が驚く。
男は、今にも失神するか発狂するかといった様子で、荒い息を吐いた。
「も、申し訳ございませぬ。此度の騒ぎ、我が末弟の不始末にございます。この際、腹を切って」
男は、その場ででも腹を切りそうな素振りを見せた。
宮は男の言葉を聞くと、さすがに難しい顔になる。
御書頭と男の断片的な言葉からも、宮には何が起こったのか分かった。男の末弟は、今宵夜務めで、内宮の警吏に当たっていた。
細かい事情までは分からないものの、男の末の弟が関わったことで、十妖は封印から解かれてしまったのである。
宮が、十妖の最後の一夭となる天狗藤吉郎を捕縛したのが、今からちょうど二百年前のことであった。
それ以後、十妖に並び比せられるほどの極悪夭は出てきていない。
七幽図と二十四獣図、それと冥府百選の三題悪書全て合わせた上を行くのが、この十妖図である。
捕縛した時は一体一体別々であったし、二千五百年から二百年前までと時間もまちまちであるが、それでもなお捕縛に手こずっている。
捕り方ではとうてい歯が立たず、宮自らが捕縛に立った者ばかりであった。
宮一夭では力が足りず、火宮と二夭がかりで押さえた者も少なくない。
それが一時に、解き放たれてしまったのだ。
世の中に降り掛かるであろう厄災は、想像を絶するものがあろう。
宮は厳しい声で、とり乱している男を諌めた。
「今は何を言っても始まらぬ。処分は後で考える」




