冥府 13
そもそも十妖図とは、冥府の犯罪史上最も凶悪な、妖かし十体を封じ込めた、最も危険な書物である。
冥府に住む妖かしには、不死の者も多い。
彼らのような妖かしが罪を犯した時には、罰することがとても難しい。
牢に閉じ込めて生涯幽閉することは土台無理であるし、脱走などの危険も増せば、警吏達の負担もいや増すばかりである。
死なぬ弱らぬ、苦しまぬ。
そのような妖かしに与えられる罰として、神名帳に封じ込めることが考えられた。
発案者は、水と火の両宮だ。
神名帳は、妖かしを封じ込める不思議な、そして妖かしには恐ろしくもある、三種の神器の一つである。
封じ込められた妖かしは、妖力を吸いとられてしまう。
妖力を全て吸われると、その妖かしはただの絵になり果ててしまうのであった。
神名帳に封じ込め、妖力を吸いとり最終的に無力な絵に変えてしまう。
それが不死の妖かしや重犯罪者への罰であり、極刑である。
彼らを閉じ込めた神名帳が御書であり、その罪夭達を統括しているのが、御書係なのである。
「衛士、民には、外出禁止令だけ出すように。永久犯であることはまだ伏せておけ」
寡黙と言うより根暗な衛士頭が、頭一つ下げて姿を消した。
その時、宮の呼び出しに応じなかった御書頭がようやく姿を見せた。御書頭は、東奔西走していたのか、息が上がっている。
「御書、類は及ばなかったか。御書蔵の被害状況をつぶさに調べよ」
御書頭は、二度頷いた。
一度目に頷いたのは、類が及ばなかったということだろう。
類が及ぶとは、脱書に際して類従者が出ることを指している。
十妖図以外は、無事だったのだ。
宮は、次の捕り方への指示を出し始めていたが、御書頭はまだその場にいた。
その場にいたのは、宮に話があったからではないようだ。
御書頭は、噛みつくような声で、侍従頭を呼ぶ。
同じ頭であるだけでなく、弟が二夭も御書係務めの為、男は御書頭とは懇意の間柄である。
見た目で言えば、十ほどの年齢の開きがあるが、御書係とはよく話もあった。
男は、手の平に水を汲むように椀の形を作った。
その途端、御書係の姿は消えたが、今度は男の手の平の手鏡の中に現れる。
声は透過しているので、御書係の言葉は宮には聞こえなかった。気にはなったが、宮には詮索している暇はない。
「捕り方、十妖に手を貸しそうな、悪党連の動向にも目を配っておくことと、火事場に揉め事を侵すような者のなきよう、目を光らせておくことも忘れずにな」
宮の言葉が、平常に戻ってきている。




