表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/312

餓鬼大夫 4

 執務の間の布の覆いを揺らして、空の盆を手にした火狐かこ一夭ひとり入ってくる。

 処理済みの書類の盆と交換する時に仲間の火狐に、火宮を横目で見ながら「どうだ?」と、聞いてきた。


 それを受けて、火宮の側に控えていた火狐も囁き返す。

「あれだけお騒ぎであったのに、どうされたものか」


 それを聞くと、相手も耳許に口を寄せて、

「あとで何をふっかけられますか分かりませぬぞ。しっかり見張っておかねば」と、言った。


 二人の火狐達は、顔を見合わせて頷き合う。


 火宮にも、その会話はしっかり耳に入っていた。

 それが主君に対する言葉かと彼らを嗜める代わりに、火宮は顔を歪ませて書類に印を押した。


 腹を立てているのではなく、火宮の顔は今にも泣き出しそうな顔だ。


 火宮の横に控えている火狐達は、そんな火宮の様子に気付かなかった。

 火宮がその時何を考えていたか知れば、それが自分達の仕える火宮などではないことは、すぐに分かったことだろう。


――み、宮様。早くお戻りくださいよーっ。


 その、火宮ではなく、火宮に仕事を押しつけられ身代わりとして火宮の姿に化けた〈身代わり地蔵〉の少年は、心の中で叫んだのだ。


 その叫びは無論、人界にいた本物の火宮には届かなかった。



 そして、人界。

 縁起堂 一階 居間と台所が続き間になっている

 朝 八時前



 台所から、朝餉の支度をしているいい匂いがしている。

 布団にくるまって怠惰な眠りを貪っていた銀丸しろがねまるは、食事の匂いに幸福な気持ちで目覚めたのだった。


 冥府にいた時と違って、食事が片付かないと母親に叩き起こされることもない。


 自分で起きると、起きたのかいと優しく宮に声を掛けてもらえ、そして朝食の献立を聞かせてもらえる。

 寝過ごすと、これまた優しく宮に、起きて御飯にしようと揺り起こされるのだ。


『シロー、何をしておいでだい、早く起きるんだよ』で、布団を引き剥がされ、寝台から叩き出される以前の生活との、比べようもないこの黄金の日々。


 銀丸はヌクヌクとした気分のまま、モゾモゾと布団から起き出した。


「宮様、今日の朝御飯は何ですか?」

 宮は踏み台に乗って、味噌汁の蓋を開けて、中を覗いているところだ。


 宮の細い肩に、銀丸は自分のひげだらけの顎をちょこんとのせて、いつものように甘える。


 銀丸は、自慢の毛皮を失った代わりにひげを生やすことを思いついて、ずっと剃っていなかったのだ。

 実際は、人界製の剃刀が怖かったとも言えた。


 銀丸のひげは、顎や鼻の下にうっすらと金茶に、しかも疎らな様子で生えている。

 それが日々伸びてくるのを、洗面台の鏡と自分の手で確かめては、銀丸は一夭悦に入っているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ