冥府 12
外では嵐が吹き荒れているが、風も雨も遮られていて部屋に雨が吹き込んでくることはなく、宮の身体が濡れるようなことはなかった。
宮は、目を細くして、滝のような雨の中を凝視している。
その宮の表情が、パッと驚きに変わった。
少し遅れて男にも、瘴気の黒い雲の中心に、青銅のような鱗を閃かせ、のた打ち回っている龍の姿が見えた。
男の顔が、愕然となる。
「あ、あれは。十妖の一、青龍の辰では」
宮は、男に構っていなかった。
鋭い声で、臣下を呼ぶ。
「六水狐頭」
水ノ宮で働く者は、みな水狐と呼ばれる。火ノ宮で働く者は、火狐である。
宮が振り向くとそこには、四角い水鏡が上に二つ、下にも二つ合わせて四つ並び、それぞれの頭の上半身から上が映し出されていた。
並び方からも分かるように、本来なら上下三つずつ並ぶのが本当である。
頭は全部で六夭。
捕り方頭、警吏頭、衛士頭、御書頭、外宮頭、侍従頭となっている。
侍従頭はここにいるが、あと一夭足りない。
水鏡に映っていないのは、御書頭だった。
何が起こったか自ら確かめにいっている最中で、宮に応えている暇がないのだろう。
何と言っても、御書蔵は御書係の管轄である。
頭達もみな、さっきの物音で目覚めて、宮と同じように窓の外を窺おうとしたり、夜務めの部下を呼び出して、何が起こったか探らせようとしているところだった。
寝起きの為、着物や髪は乱れているが、宮の前とは言っても、この際構っていられない。
「なぜかは分からぬが、十妖の封印が解けた。急ぎ、捕縛に向かう。水呑童子を」
衛士・捕り方と警吏の中で、危急の際、特別任務に当たる者を選んで水呑童子と呼ぶ。
男も、宮の支度を手伝わせる為に、侍従達を呼びつけた。
物音に、同じく目覚めていた侍従達が、控えの間から狐の形で飛び出してきて、宮の寝所に駆け込んでいく。
すぐに、人間の形で手に手に着物や靴などを持って、寝所から出てきた。
急ぐ時は、狐の形をしていた方が四つ足であるぶん早い。
水狐と狐の字が使われている通り、水ノ宮に仕えている者の多くが、狐の妖かしである。男も、当然そうだ。
「外宮、火ノ宮に十妖図であることと援を」
外宮が、ハッと短く応えて、姿を消す。
侍従達四夭が、よってたかって宮の側にまとわりついて、室内着の上から狩り用の、動き易い着物を着せかけていく。
宮は侍従達にされるままになりながら、頭達に指示を鋭く飛ばしていった。
「警吏。原因を早く。十妖図の確保も。何体が抜け出たか」
忙しくやらねばならぬことが沢山ある時、宮の言葉はとても端的になる。




