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死神佐平 32

 銀丸しろがねまるが「お風呂は?」と言うと、もちろん入れると宮に即答されて、それで銀丸は諦めたように宮と手を繋ぎながらトボトボと歩き始める。


 

 それを見ていた火宮が、ポツリと言った。

「それにしても、楽しそうであるな」

 

 てっきり火宮が、弟と遊んだ幼い頃を思い出しているのかと思いきや、火宮の思いは別なところにあったらしい。

「私も、銀丸をいじめたい」


 火宮は、スイは狡いと悪態を吐いた。


 銀丸にからかい甲斐があるのは本当だが、宮と違って火宮の悪戯好きは、火狐かこ達の嘆きの種の一つである。

 その火宮に気に入られた銀丸も、大概であろう。


 少年が火宮を慰めて、

「帰ってきたら、幾らでもいじめられるでしょうに」

 と、これまた銀丸には嬉しくないことを言った。


 

 水鏡がスッと消えて、火宮は退屈そうに文机の椅子から立ち上がった。

 文机とは言っても、火宮にあるものとは違って小さな物である。


 部屋自体も、火宮の居室と比べれば天と地ほどの差があった。

 ここは、火ノ宮に仕える火狐達の寮だ。


 この部屋の持ち主は、火の宮と一緒にいた少年のものである。


 少年とは言っても、不死ではないが不老の妖かしである為、火宮と同じで見た目通りの年齢でないことは確かだ。


 実を言えば、銀丸よりもこの少年かれ、年が上なのである。であるからこそ、先の発言にも繋がってくる訳だ。

 幾ら少年であっても、己より年上の相手を敬うことは知っている。

 年下で、しかも銀丸であればこその発言と言えた。


 火宮は、職務を抜け出して人界の様子を覗く為に、少年の部屋を使っていたのだ。

 いつもいつもであればすぐにバレるので、少年の部屋、侍従頭の控え室、己の夜御殿よるのおとどや離れ、菅公のいおり赤熊せきゆうの厩と場所を変えていた。

 

 今頃火狐達は火宮を探して、あちこちウロウロしているだろう。


 可愛そうに、侍従頭の玄孫やしゃごはまだ幼い為、この時間には控え室で寝ている時間だ。

 寝入り鼻を起こされて、火宮はどこかと火狐達に聞かれて迷惑をしていることだろう。


 火狐達は、すぐにもこの部屋まで探しにくるに違いない。

 内殿の執務の間から火宮が離れられるのは、せいぜい十分がいいところである。


 火宮も長く椅子を離れるつもりはなく、少年に言われるより先に、執務の間に戻っていこうとしている。

 その火宮の背中が、生き生きしているように少年の目には映った。


 その途端、少年はハッとして顔色を変えると、火宮を追う。

「駄目ですよ、絶対。人界に行くなんて、もってのほかなんですからね」


 火宮は、追い着いてきた少年を振り返ると、

「嫌じゃ」

 と、高らかに言い放った。

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