死神佐平 31
宮はそのおかしさを知りつつも、あまり重く考えていないようだ。
宮は、ふと思い出したように、
「其の方、稲荷寿司が好きであったな?」
と、意味深な言い方をした。
銀丸が「狡いです」と宮に、よりにもよって宮に喰ってかかる。
「宮様だって、私を買収しようとしているではありませんか」
宮は、子供らしい笑顔を銀丸に向けた。
「嫌か?」
銀丸は暫く考えていたが、宮を窺うような声を出す。
「一週間、毎日、稲荷寿司なら」
宮が冗談で、軽く銀丸を睨むと、銀丸の言葉をあっさりと却下した。
「なる訳なかろう」
そして、
「決めた。其の方の本性を、何としても洗うぞ」
と、宣言した。
銀丸が、えーと大きな声を出す。
「三日。三日で手を打ちますから」
足の早い宮に遅れまいと、銀丸が小走りになりながら、宮を追って銀丸は未練たらしいことを言っている。
宮は、銀丸を置いていきそうにスタスタと歩きながら前だけ向いて、こちらは凛々しく、
「公明正大を旨とする水宮が、家臣を買収したとあっては情けないからな。あとは、正義の元に実力行使あるのみだ」と、言った。
宮の口調に混じる悪戯っぽい響きにも気付かないほど銀丸は動揺していて、宮様と、泣きそうな声を上げた。
冥府の水鏡を使って人界の、宮と銀丸の様子を見ている者がここに二夭。
冥府は今は、夜だ。
二夭は顔をくっつけ合うようにして、その映りの悪い人界から送られてくる映像を見ている。
一夭は、八つか九つばかりの女童。
髪は、女髪の曲げにして結ってある。着ている着物の頒布はだらしなく垂れて、女童子の尻の下に敷かれていた。
水鏡を覗いているもう一人は、十代半ばほどに見えるクリクリの坊主頭の少年である。
少年は直衣ではなく、白い狩衣を着ていた。
「銀丸は、絶対に、気晴らしの道具にされておるな」
女童の方――実は彼女は火ノ宮の最高責任者、火宮司で(ひのみやつかさ)ある――は、水鏡に映る宮と銀丸の様子を評してそう言った。
「それぐらいしか、役に立たないのではないですか」
少年の方が、なかなかきついことを返す。
しかし、それ以外に銀丸に遣い道があるのかと言うと、銀丸のことを買っている宮であっても、口ごもってしまう筈だ。
水鏡の中では、宮に銀丸がまとわりついて「宮様、宮様」とやっている。
全く、呆れた姿だ。
宮が、いい加減からかい過ぎたかと足を止めて銀丸の手を掴むと、昼は稲荷寿司にするつもりだから、それで我慢するのだぞなどと言っている。




