死神佐平 30
「佐平も、最後の最後で気付いたようだな。私があの者の存在を、犯罪に走る前に知っていれば……などと、今更言っても詮のないことだがな」
宮はそこで言葉を切ると、自嘲するように笑う。
銀丸は神妙な顔のまま、宮を窺うように聞いてきた。
「宮様も、もしや不死の人生に苦痛を感じることがあるのですか?」
他の者なら思いはしても、口にするのは恐れ多くて憚かるものだろう。
銀丸は、普段はぼんやりしているが、妙に敏感なところがある。
宮は笑って、それに対する答えは返さなかった。
「どうであろうな」
これこそ、言っても詮無いことだ。
永遠に生きる者と、死んでいく者。
それが人ではない妖かし達に、課せられた業であろう。
全ては滅びる――ではなく、滅ぶ者と滅ばぬ者がいる。それが、冥府なのだから。
宮は、冥府とは異なる青い空を見上げると、眩しげに目を細めた。
その日、天気予報では晴れると言っていた通り、薄曇りだった空は西から晴れてきている。
「久しぶりによい天気になりそうだな。これで洗濯物がよく乾く」
宮は、すっかり主婦業が板についたようだ。
べつに冥府にいた時から、上げ膳据え膳の生活ではなかったが、それでも銀丸の世話をしなければならないぶん、宮の仕事は増えている。
それを零すこともなく宮は、水宮司としての普段の業務の半分強と、人界での捕り物の指揮、銀丸と己の世話、更には最近では、宮を頼ってくる人界の妖かしどもの面倒まで、見なければならなくなっていた。
宮は、下生えに膝をついた為に、芝生と泥のついた銀丸のズボンの膝を払ってやりながら言う。
「其の方、人型で風呂には入っているが、やはり狐の本性の方も時々洗わぬと、獣臭くなってくるようだな。せっかく晴れるのだ。庭に盤でも出して、其の方の本性を洗うか?」
それを聞いた途端、銀丸がヒィと情けない声を上げる。
「それだけはご勘弁を。私が、風呂嫌いなのは宮様もご存じでしょうに?」
「子供のようなことを申すな」
宮が嗜めると、銀丸は宮を上目遣いで見ながら、
「無理に洗うなら、思いっきり暴れますからね」と、言った。
宮は、流石に呆れた顔を隠せない。
「銀丸。私を脅してどうするのだ」
銀丸は唇を突き出して、だってぇと拗ねている。
これでは、どちらが子供か分からない。
見た目で言えば宮の方が子供だが、宮は不老不死の為、実際は銀丸よりずっと年を経ている。
しかし見た目で言えば、どこから見ても真っ当な大人――と言うには、銀丸は現代的な若者過ぎて、立派な大人と呼ぶには誤謬があるのだが――が、一回り以上年が下に見える宮に頼りきりというの如何なものか。




