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死神佐平 29

「佐平はもう神名帳しんめいちょうの中だ。娘のむくろとともに、今度こそ心静かに過ごすことだろう」


 銀丸しろがねまるは四つん這いになって、茂みの下から這い出してきた。


 宮が、心持ち呆れたような顔になる。

「そのような所に人の姿で潜り込んでは、服が汚れてしまうではないか?」

 宮の言葉に、咎める響きはない。


 とは言え、むろん服を洗うのも宮の役目だ。


 銀丸はただ隠れていたに過ぎないにも関わらず、大仕事でも終えた後のように、大きく息を吐いた。

 隠れているだけでも、銀丸には疲れる作業だったのかも知れない。


 死神という言葉を聞くだけで、銀丸などは怖気震うのであった。


「なぜ、あの娘は、佐平を怖れなかったのでしょう?」

 銀丸は、不思議そうにそう聞いてきた。


 宮は「ああ、それか」と、呟く。


「人は、死を怖れるとともに、死に魅かれるものだからだ。獣は別だが、妖かしも人と同じで、死を怖れるとともに、死に魅かれもする」


 銀丸は、死に魅かれるというのが理解できないようで、そうなんですか?と疑り深そうな声を出す。


 宮は幾つか例を出して、銀丸に説明するべきかとも思ったが、やはり己が経験せぬ限り、死に魅かれる者の気持ちは理解できぬだろうと、そういう者もいるのだよと言うに留めたのだった。


 それでも銀丸は、そうでも考えなければ、娘が佐平を恐れなかった理由がないと、一応は宮の意見を受け入れたようだ。

 けれども、心の底から理解することはない。


 もし銀丸が生きているのを苦痛に感じる日がくれば、その時にこそ今の宮の言葉が分かるだろう。

 その時の銀丸に宛て、宮は次の話をすることにした。


 今は届かなくとも、いつか宮の言葉が分かる日が来た時には、きっと死神達についての考えも改まることだろう。


「だからこそ死神達は、他の者と交わらぬ」


 死神は、世間が思うように、独りで生きることを好む訳ではない。

 反対に、他者ヒトと交わることを好む。


 死はいつだって、生とともにあるものだからだ。


 しかし、だからこそ彼等は、限りある命の者達の目に触れることのないように、独りで生きることを選ぶ。


「生き物を慈しむからこそ、生きている間は、死神を見ることで、死を思い出すことのないように配慮しているのだ」


 宮は淡々と、銀丸に語りかける。

 銀丸は、分からないなりに、一応は神妙な顔をして聞いていた。


「彼等は、とても優しい種族だ。不老不死の妖かしは、永遠の生を時に苦痛にし、死に憧れる。それもあって、死神は不死の妖かしと付き合うことすら己に禁じている。彼等は優しく、そして素晴らしい者達だ」

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