死神佐平 28
もし佐平が見苦しくあがけば、問答無用でとり押さえられることだろう。
八百年前の時のように。
しかし、自分から縄につく者を罪夭として辱めないのが、宮のやり方だ。
佐平は、女の遺体に心の中でだけ語りかけた。
これで醜く腐ることはないと、それでも骸骨になってもきっと奇麗だっただろうねと、付け加えるのは忘れなかった。
佐平は、淡く微笑んでいた。
宮は今は厳しい顔で神名帳を召還し、罪状を読み上げながら、手にした筆で神名帳へと書き記していく。
「穴抜けの罪、脱書の罪、そして無差別大量殺戮の罪により其の方を、凶悪犯罪者として芳名する」
佐平は、アッと驚いた。
宮の台詞から、永久という言葉が抜けていた。
佐平は、ただの凶悪犯罪者の扱いを受けることになった。
刑期が済めば、絵と成り果てたあとは、犯罪者として名前を上げられることはなくなるのだ。
己を許すまいとでもするような、厳しい表情を宮はしている。
宮としては、佐平を許してしまいたいと思っているのだろう。
但し、佐平の犯した罪は許してはいけないし、許すことは法を守る者として決して許されないことなのである。
凶悪犯罪者として佐平を封じることが、宮にできる精一杯であり、宮の優しさなのだ。
「宮様。御心遣い痛みいります」
佐平は女を腕に抱いたまま、静かに頭を下げた。
宮は佐平の姿を目に焼きつけるように強く見つめながら、神名帳を空に向かって投げ上げた。
「捕縛」
佐平と腕に抱いていた女は、神名帳に吸われて消えた。
神名帳が役目を終えて、宮の手に戻ってくる。
途端、姿を隠していた水呑童子達が現れて、神名帳を保管箱に収めると、宮を残して冥府へと戻っていった。
宮は、一仕事終えた時の常で、浮かない気分をしている。
今日の捕り物は、いつも以上に憂欝なものであった。
宮の気分を解してくれる相棒は、宮の側にいない。
相棒とは、もちろん銀丸のことだが、役に立たないからと家に置いてきた訳ではない。ここに来るのも一緒だったのだが、銀丸の姿が見えなかった。
「銀丸。銀丸。どこに行ったのだ。もう捕り物は終わったぞ」
中庭の木立に向かって、宮は銀丸に呼びかけた。
宮は、ふと足を止める。
茂みの中から、銀丸の目だけ覗いているのが見えたからだ。
銀丸は怖々と、
「死神は?」と、聞いてきた。
銀丸は、死神の姿を見るのさえ怖くて、捕り物の間中ずっと隠れていたのである。
気を失って、宮に世話をかけることを心配していたのではなく、あくまで死神佐平が怖かったのだ。




