死神佐平 27
どこかで線を引くこと、それが死神が決して他者と交わらぬことを、徹底させたに違いない。
「私が独りは嫌だと駄々をこねてお宮に居座れば、きっと宮様は私を受け入れてくだすったことでしょうね」
――ご迷惑でしょうが。
佐平は、最後にそう付け加えた。
宮は、苦しげに顔を歪める。
「迷惑なものか」
宮は、本当にそう思っていた。
愚かな罪を重ねるかわりに、お宮に訪ねていって談判すればよかったのだ。
宮の優しさにつけ込むことになっても、それをやっていれば、佐平は間違いなく罪夭にはならなかっただろう。
直談判、苦情陳情もお宮では随時受け付けている。
宮の尊顔拝したさに、陳情を持ち込むような不届き者もいる。
それらの者にさえ、宮は優しい。
不敬ではなく、尊敬故の行為と、宮は彼等の心情を第一に考えるからだった。
佐平も、下働きでいいお宮で使ってくれと、言いにいけばよかったのだ。
ほんの時たま宮に声を掛けてもらえるならば――いや、宮の姿を遠目にするだけでも、佐平は己が独りだとは思わなかっただろう。
お宮で働いているのは、多くが狐の妖かしである。
しかし中には狐ではない者も、それどころか以前犯罪を犯した者であっても、お宮で働いている者はいる。
それらも、分け隔てなく水狐と呼ばれる。
そこに宮の心柄が、よく表れていると言えよう。
求める者は決して、無礙には扱わない。
しかし佐平は罪夭で、宮は罪夭を裁く立場にいる。
宮が佐平の前に現れたと言うことは、佐平は再び捕らえられ、神名帳に封じ込められることになる。
佐平は、抵抗しようとは考えなかった。
それだけのことを自分がしたことを、今は分かっている。
佐平は、最後に思った。
自分は精神的に幼く愚かで、何かに縋らずには生きておれない。
他の者達はできても、佐平には無理だ。
だったら最後に、一度だけ一度だけ縋ってみようと佐平は思った。
女の骸をベンチに預け、佐平は地面に跪づき、宮に平伏した。
「宮様は、お優しい方です。どうか、私をお救いください」
宮は、顔を上げた佐平の視線の先で頷いた。
「今度こそ、その娘とともに、眠りにつくがよい。二人でな」
宮は温かく微笑みながら、宜しいのですかと驚いて聞いた佐平に、もう一度頷いてくれた。
感じ入った佐平は、宮に向かって深く頭を下げる。
佐平は立ち上がると、ベンチにもたれさせていた女の遺体を抱き上げた。
最後ぐらい、見苦しい姿は見せたくない。
宮もそれが分かっているからか、水呑童子達を呼び寄せなかった。
きっと、辺りに潜んではいるのだろう。




