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死神佐平 26

 辺りの空気が変わっていることに、男はようやく気付いた。

 結界が敷いてあるのだ。


 いつの間にされたものか、男は全く気が付いていなかった。


 結界を敷けば、他の人間が入ってきて邪魔をすることもないし、結界を解かない限りは、簡単に外へは出ることもできない。


 男は、結界によって閉じ込められていた。


 まさか人界まで追っ手が伸びてくるなど、今の今まで男は考えもしていなかった。きっと男には、ずっと探索の目が向けられていたのだろう。


 人界まで、そして最高責任者自らが赴いてきたのだ。

 それだけ男が、冥府の警察機構にとって、重く見られている証拠と言える。



 水宮司みずのみやつかさは男と目を合わすと、少し微笑して見せた。

「久しぶりであるな。佐平」

 それは決して、犯罪者を前にした裁く立場にいる者の態度ではないだろう。


 しかし水宮は、たとえ犯罪者にであっても恩情を見せる、有徳の妖かしである。


 八百年前の捕縛を受けた時の、なぜこのようなことをしたと見る悲しげな宮の目が思い出されて、佐平は顔を俯けた。

 そして宮はあの時、己自身を一番罰したかったのだろう。


 今となっては、佐平にもそれが分かった。



「たとえこの私であっても――いや、どのような者であっても、死した者を甦らせることはできぬ。奪うのは簡単だ。しかし与えることは、人であろうと妖かしであろうとできぬことだ」


 その通りだと佐平は、宮の言葉に頷いた。


 八百年前の佐平は、そんな簡単なことすら気付いていなかったのだ。

 もし同じことを宮に言われても、それがどうしたんだと、佐平は鼻も引っ掛けなかったことだろう。


 今は、今なら分かる。

 与えることのできぬ、それほど大切なものを奪うという行為の、どれほど非道なことかが。



「其の方を救えなかったのは、私の不徳だ。許してくれ。佐平」

 宮はそう言うと、あろうことか佐平に頭を下げた。



 宮は、佐平が死神でありながら、幼い精神しか持っていなかったことを責めるのではなく、それに気付いてやれなかった己を責めていたのだ。


 責められるのは、宮ではなく佐平だ。

 それが当たり前であるにも関わらず、宮は己を責めるのである。


 佐平は、首を振った。

「宮様は、お優しい方です」

 それが分かるからこそ、死神達は余計に、己に厳しい規約を課せたに違いない。


 宮の優しさに縋ることで、宮の負担を重くしたくないと。


 佐平にも、その気持ちが分かる。

 自分を律していなければ、どこまでもズルズルと甘えてしまいそうだ。


 そして宮は、それすら許してくれるのだ。

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