冥府 11
内宮の警吏は、建物の警備だけでなく、捕縛者の監視員としての役目もあった。
その為、内外殿の警備の者を衛士、内宮の警備は警吏と、呼び分けがされている。
内殿は、夜御殿や、朝餉ノ間・御湯殿などの宮の私的空間と、接見用の殿上ノ間がある。
外殿には執務の間や朝議の間、詮議の間などがあるので、別名昼御坐所と呼ばれる。
「内宮勤めなら、一度暇をみて連れてくるといい」
できるだけ宮は、臣下と触れ合う機会を作ろうとする。
男は、気持ちだけ受けとるつもりで、ハッと短く答えて頭を軽く下げた。
その他夭行儀な挙動を、宮はどこか寂しく思いながらも、夜の内に済ませた残務書類を入れておく文箱の一番上に、その火ノ宮に資料を提供する為に必要な書状を載せて、最後の仕事としたのだった。
「兄弟が近くにいるのはいいものだ。これからも、仲良くの」
宮は、その言葉を潮と決めたようだ。
男は、冷めないようにしていた蓋をとって、宮に湯飲みを勧めた。
宮は、男が持ってきた温めた飴湯を、ゆっくりと飲み干す。
盆は自分で運ぶからと、宮は男に下がるように言いつけた。
男は諦めて、頭を下げて臣下の礼をとると、部屋を出ていこうとする。
宮も、高い椅子から降りて、盆を手にして寝所の入口に向かおうとした。
寝所の入口の両脇に炎が点る。
文机の炎は、宮が席を離れると自然に消えた。
男は、入口の薄布を手繰りながら、それではお寝みなさいませと、宮に声を掛ける。 宮も、寝所の薄布に手を掛けながら、男に応えようとした時だ。
ドオンッというくぐもった音とともに、建物が揺れた。
咄嗟のことでよろけて手をついた宮の身体を、薄布はしっかりと支えてのける。
男は、よろよろと入口の柱にしがみついて、転倒を免れた。
揺れは、数秒も続かなかった。地震ではない。
地の底からくるものではなく、何かが爆発したような震動だった。
揺れがおさまるとともに、宮は文机に駆け寄って盆を邪魔にならないように、上に置いた。男も、宮の側に駆け寄る。
「御書蔵の方にございます」
揺れは、内宮の方で起こった。
何があったのかは、宮にも男にも、分かり過ぎるほど分かっていた。
宮は、パッと窓に駆け寄ると、窓にかかっていた遮光用の日覆いを掻き分け、二畳以上もある窓を開け放した。
外はひどい雨だ。
黒い雲が湧き上がって、渦を巻いている。
雨が視界を奪ってよく見えない。
窓枠を握り締めて、宮は窓の外に目を凝らした。
男も、宮の横に立って、外を眺めた。
濃い瘴気が漂っている。




