死神佐平 23
「昨日、倒れたんだ。半分死にかけてたから、ここには来れなかったの」
女は、冗談っぽくそんなふうに言った。
冗談にすることかと、他の人間なら怒ったかもしれない。
そういうことは、自分も死を前にしてから言えばいい。
冗談にでもしなければ、やりきれないのだ。
それが分かるから男は、へぇと相槌を打っただけだった。
男の口からは、間違っても、可愛そうだねなんて言葉は出てこなかった。
本当に、命を大切だと思うからこそ、軽々しく言葉になどして言えなかった。
「多分、今夜、保たないって」
男は、それにもうんと頷くだけだ。
女は、今夜までだって保たないだろう。
生き物の命とは、何と儚いことか。
「それなのに、出てきたの?」
自分の最後の命をどう使うかは、女の勝手だ。
男に会いたくもないのに、義務感からここに来る必要はない。
「あなたが来てるかと思って。それに、病室にいると息が詰まりそうで、出るなんてもってのほかなんだけどね。抜け出してやった」
女はそう言うと、ニッと悪戯っぽく笑った。
それでいい。
出るなんて以ての外だと人が言おうと、残りの時間をどう過ごすかは、本人に委ねられるべきだ。
しかし男は短く「死ぬよ」と、言った。
「いいわ」
女は最初の日、男に向けたのと同じ笑顔で言った。
執着など微塵もない、さばさばとした口調だ。
そのままの口調で、当たり前のように女は、
「あなた人間じゃないんでしょう?」
と、男に聞いてきた。
男は少し戯けて、
「何だと思う?」
と、聞いた。
真面目腐って女は男を見つめると「死神」と、答えた。
女は、冗談を言っているのではない。
男も冗談に紛れさせずに真面目に「そうだよ」と、答えた。
それを聞くと女は、良かったと言う。
何がいいのか、男には分からなかった。
死神でいいなんて言われたことは、一度だってない。
女は前を向くと、まるで子供のように足をブラブラさせた。
いや、まだ子供と言ってもいい。まだ二十歳にすらなっていないのだから。
女は冗談っぽく笑いながら、
「私を迎えにきてくれたのが、あなたみたいな素敵な人で良かったわ。素敵って言ったら、ちょっと言い過ぎかな」と、言った。
男も面喰らったことを隠す為に、冗談っぽく女と顔を見合わせて、
「そうだな」
と、応じる。
女は、ちょっと口ごもると下を向いた。
そして小さな声だったが、やっぱり素敵だよと、女は呟いた。
女は照れ臭さを隠す為にパッと顔を上げると、やけに陽気な声を出す。




