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死神佐平 21

 死は己自身だ。

 男が、自らを忌避することもない。


 死は男とともに在るものだ。



「死と俺は、とても仲がいい。君も死と仲がいいんだから、俺とも仲がいいことになる」

 聞きようにようっては、まるで口説き文句である。


 女はただ、複雑そうな顔で言った。

「訳分かんないよ」


「いいんだよ。分からなくて。この世の中、分かることばっかりじゃ、面白くないよ。俺には、君が分からないもの」

 男にジッと見つめられて、女は途惑ったようだ。


「今日も、すぐにまた帰るの?」

 女は、男をどう扱っていいのか分からないでいる。

「今日は、曇りだからね。まだ少しは、いても平気かな。でも、雨が降りそうだ」


 男はそう言って、暗い空を見上げた。


「雨は好きじゃないの?」

「別に、雨男ではないからね」

 女は、ふうんと頷いたが、男が言った言葉の意味は、もちろん分かる筈もなかった。



 雨男という言葉は、人界にも冥府にもあるが、意味は違う。


 冥府には、雨男・雨女なる妖かしが住んでいる。

 人界においては、それは妖かしの名前ではなく、その人間が参加すると雨になる、だから雨を呼ぶ雨男、または雨女などと呼ばれるのであった。


 それは偶然か、それとも案外、人界に人間に混じって暮らしている、本性は妖かしの雨男や雨女なのかもしれない。




 それから男は、暫く話して女とは別れた。

 別れた後、真っ直男はアパートに帰って眠る。


 起きたあと、その日は外には出かけなかった。

 男はベッドに座って、冥府での日々を思い返していた。


 死体は、腐り続けている。



 その次の日も、男は病院に行った。

 女は、ベンチで男を待っていた。


 日に日に女が弱っていくのが、男には一目で分かる。


 べつに女と会っても、男は大した話をする訳ではない。

 大した話をする訳でもないが、男はそれだけで満たされていた。


 過去には、欲しがっても決して得られなかったものを、男は手に入れたのだ。


 しかし、男の充実した日々は、長続きしなかった。


 その次の日。いくら待っても、中庭のベンチに女は現れなかった。

 女は昨日の別れ際、初めて自分の方から、また明日ねと言ったのだ。


 しかし、女は来なかった。


 裏切られたとは思わなかった。


 女が、それほど長く保たないことは、死神である男には分かり過ぎるぐらい分かり過ぎることだったのだ。

 夜中にでも容体が悪化して、死線を彷徨っているのかもしれない。


 多分、他の人間なら女が間もなく死ぬとは、思いもしないことだろう。

 元気そうに見えるのに、どうしてこの子がと不思議に感じるに違いない。

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