死神佐平 19
それにしても、男のようにスマートに生気を奪うことができる者はいなかった。
死体が醜くなる。
その点、死神に殺された者は、決して醜い死体とはならない。
しかし放っておけば、もちろん死体は腐り、どんどん醜くなってゆく。
クローゼットに押し込んだ、あの若者の死体のように。
部屋に戻れば、死臭と腐臭は更に強まっていることだろう。
その中で、男は眠りにつく。
今日だけはなぜか予感ではあるが、男は夢も見ないで眠れるような気がした。
女は呆れたように男を見ながら、
「やっぱり、あなたって変」
と、最後に呟いた。
「ありがとね」
男はそう言うと手を振って、その後はもう振り返らずに、女をその場に残して歩いていった。
女がそれから暫くベンチに腰掛けていたのか、男が帰ると自分も病室に戻ったのかそれは分からない。
ただ何となく女が、男が消えた後にももう一度、変な奴と呟いたような気がしてならなかった。
男はアパートへと戻ると、本当に夢も見ずに深く眠った。
それが数日間眠りが浅かった代償だったのか、女に会った所為だったのか、男には判別がつかなかった。
男は久しぶりに、その日の夕方、快適に目覚めた。
目覚めた後は、いつも通り日常的な細々とした身支度に時間をかける。
男は、給料袋に入っていた最後の万札を財布に供給して、アパートを出た。
その夜、男は一つ買物を済ませただけで、あとは街中をウロつき回ることなく、見つけた空き地のブロックに腰掛けて、ぼんやりと空を見上げていただけだった。
男は、昨日と同じ時間より早目に病院の中庭のベンチに着いた。
そこにあの女の姿はなかったが、男は気にせずベンチに腰掛ける。
本当は心中、穏やかではなかった。
きっと女は、あとで怖くなったのだろう。
死を前にしている時は気付かなくとも、あとになって恐怖を感じることもある。
その時は、夢中だったのだ。
女もあとになって、死に対する恐怖を覚えたのではないか。
だったら男が来るかもしれない中庭に、二度とやってくる筈がない。
女もしょせん、男を怖れる他の者と変わらなかったのだ。
男は、自分を自嘲するように笑った。それでも、昨日女に会った時間までは待っていた。
それから未練たらしくも、十五分は待っただろうか。
「嘘!?」という声が聞こえて、男は顔を上げる。
昨日の女だ。
男を認めて、足を止めている。
逃げるか、慌てて背を向けるか。
男は、ただ女を見つめていた。
女は、逃げなかった。背を向けたりもしなかった。反対に女は、男に小走りに駆け寄ってくる。




