死神佐平 18
言葉を交わし、笑い合う。
それが高望みであれば、ただ側にいるだけでも良かった。
それだけで、男にとっては満足だったのだ。
女は笑うのを止めると、
「軽いのね」と、言った。
女は、もう怒ったりしなかった。
男は戯けて、笑いかける。
「暗いのを隠す為にね」
男は初めて己の心の裡を晒すことに、興奮して言った。
「病院好きなんだ。でも、病院には嫌われてる。君がいたら、お見舞いに来た人のふりができる。また来てもいいかな?」
男はそう言って、ジッと見た。
女は、新手のナンパ法と思ったようだ。
病院が好きなのは、死の匂いがするから。
しかし病院は、死神なんてとんでもないと、男を締め出しにかかってくる。
死に近い人間は、男を見ると恐れ慄くことだろう。
男を見ることで、見たくない死を見せつけられることになるからだ。
男は、死自身だ。
女にとっても、それは同じだ。
決して逃れることのない迫りくる死として、女の目に男は映ってしかるべきだった。
女は複雑な表情を浮かべると、
「変な人」と、言う。
腹を立てるべきか。喜ぶべきか。はかりかねたのだろう。
女は男から顔を背けると、下を向いた。
「大体、この時間にここに来るの」
女の声は小さかったが、聞きとれないことはなかった。
来てもいい、そう言っているのと同じだと、女は自分で自分に幻滅したようだ。
男は女の言葉に「そう」と軽く呟くと、ベンチからパッと立ち上がった。
「だったら、この時間に。また明日ね」
女も、これには驚いたようだ。
目を見開いて「え、もう?」と、聞いてきた。
男は悪戯っぽく、
「行かないで欲しい?」
と、聞いた。
女が、ムッとしたのが分かる。
「じゃなくって、これから、バイトでも行くのかと思って」
恨みがましい目で見ながら、モゴモゴと言った。
本当にそれだけで、他意はなかったようだ。
他意などある筈もない。
出会ったばかりの、何者かも分からない男だ。
男がどんな人間なのか、女ははかりかねていて困惑しているようである。
「違う。あんまり日が高くなると、いい気分じゃないから。これから寝に帰る」
男の頭の中に、ドラキュラという覚えのない言葉が浮かぶ。
陳腐なイメージは、殺した女子高生か若者かの、どちらのものだか。
べつに男にとっては、どっちだってよかったが。
もちろん冥府には、吸血系の妖かしはいる。
しかし血よりも、生気を吸う者の方が多い。




