死神佐平 17
「そう。君の方が変わってると思うけど」
見知らぬ人間にもうすぐ死ぬねと声を掛けられて、平然と笑って、そうだと答えられる者はそうはいない。
しかも冗談ではなく、本当に先が長くないのだ。
普通の人間であれば、簡単に逆上することだろう。
それを微笑んで返した女を、変わっていると言わずに何と言うのか。
女は、男の言葉をお気に召さなかったようだ。
明らかにムッとした顔を女はすると、本気で腹を立てて、
「放っといてよね」
と、男から顔を逸らせた。
男は、別にけなした訳ではない。
誉めた訳でもないが、ごく客観的に見てそう言ったのだが、女を怒らせる結果になったようだ。
男は、女が顔を逸らせたのをよいことに、ジロジロと女を眺めた。
若い男が、パジャマ姿の若い女に注ぐ視線とは明らかに違う。
男の目は、膨らんだ女の胸は素通りしている。
女は、十代後半ほどだ。
男の感覚では、人間の美醜は分からない。
あの若者や女子高生の感覚で言えば、目の前にいるこの女は、可愛くないことはないと言えた。
しかし、男にも分かる――いや、男にしか分からないことはある。
女の骨格の作りは良かった。
男は、それに気付くと笑顔になる。
「君はいい骨格をしている。僕は本性が骸骨だから、骨格にはうるさいんだ」
女は、訳が分からないという顔をする。
女を誉める言葉にしても、骨格云々なんて言う男はいないだろう。
顔が可愛いとか、スタイルがいいとか、髪が奇麗だとか、膚が奇麗だとか。
普通、誉めるにしても、もっと別な言葉があるだろうと女は思ったようだ。
「何それ?」
女は、呆れたように男を見た。
男が言った本性は骸骨という言葉を女は、男が痩せていることを指して言ったのだと思ったようだ。
そうではなく、男の実際の姿が骸骨なのだが。
女は暫く男を見つめていたが、突然プッと噴き出すと、本当におかしそうに笑い始めた。
「変なの」
女は本当に楽しそうに、ケタケタと笑っている。
男はそれを見ると思わず、
「怒ったより、笑った方がいいよ」
と、言っていた。
本当に、男はそう思っていた。
微かだった女の生気が、笑うことで活性化する。
男は、辺りの空気が、フッと柔らかくなったような感触を覚えていた。
男の言葉に、今まで笑ってくれた者などいただろうか。
笑うも何も、言葉すら交わすことなく、男を見るなり冥府の者は逃げ出していく。
死は忌むべきものであり、逃れたいと思うのが当然のことだった。
他の者を責めるのは酷というものだ。
しかしそれでも男は、他者と交わりたかった。




