死神佐平 16
寿命を伸ばせないことは、本人が一番良く分かっている。
どれだけ医学が発達しようとも、死を、目の前に来た死を回避することはできないのだ。
「名前なんて言うの?」
女は、言葉が途切れるのを怖れるように、そう聞いてきた。
「テッペー」
男の口から、思わずその名前が飛び出てくる。
男が殺した相手が、哲平なる若者であった。
男は餌食を物色している時に、その若者がバイト仲間にテッペーと呼ばれているのを聞いたのだ。
ほんの少し、自分の名前に似ていた所為で、哲平は男の獲物にされてしまったのだった。
もちろん最終的には、人間に変化した時に、背格好が自分に似ていることを考慮して決めたのだが、名前を聞いていなければ男の目に留まっていず、今も哲平なる男は呑気に生きていたかもしれない。
たまたま名前が似ていて、たまたまその名で呼ばれているのを男が耳にしたばかりに、その若者は死ななくてはならなくなったのだ。
男の名前は哲平ではなく、本当は佐……。
「さ、佐藤哲平」
男は、勝手に名前をでっち上げていた。
本当は、佐平と言うのが男の真名である。
しかし現代の人界で、佐平もないことが男にも分かっていた。
男の口から、意識せずとも言葉が飛び出てくる。
しかし男のプロフィールではなく、それは男が食べたあの若者の略歴であった。
「二十三才のフリーター。彼女は、別れて二年。今は、いない。学校は、専門学校卒。趣味は、バイクと旅行。こんなんじゃ彼氏にするには不合格かな?」
女は男の最後の言葉に眉を顰めると、唇を尖らせる。
「別に、そういうつもりで聞いたんじゃ」
声は、少し媚を含んでいた。
別にわざとではなく、女という生き物の性に過ぎないだろう。
その証拠に、次に男が、
「じゃ、そういうつもりで考えてよ」
と言うと、女は馬鹿にされていると思ったようで、怒りも露わに男を睨みつけてきた。
女がそのまま立ち上がって、どこかに行きそうな素振りを見せたので、男は慌てて女を引き留める。
「ごめん。色々うまくいかなくて悩んでるんだ。もうすぐ死ぬ人なら何言っても大丈夫な感じがして、それで君に当たっちゃったんだ」
暫く黙って、女は男を見ていた。
女の目に、もう怒りがないのが分かる。
呆れているような、それでいていくばくかの興味が男に湧いたような目であった。
女は、そこまで本気ではないが軽く男を睨みつけると、
「変な人」
と、吐き捨てた。
男は、ちょっと驚いて目を丸くする。




