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死神佐平 15

 若者達の中には、肉体と精神のバランスが崩れた時の反動で、身体の肉が弾けた者もいたようだ。


 男はもう何も考えず、ただクスクスと狂ったように笑い続けていた。


 殺してやった。


 人間には、価値なんかない。

 連中は、生きる意味も知らないのだ。

 だから殺しても構わない。


 死神は、人の命を吸いとるものだ。

 これは、人殺しとは違う。


 つまらない奴らは一掃して、そうすればこの世界も案外よくなるかもしれないと男は考えた。



 男にとって、何の価値もない人間を十人ばかり殺した日の朝、男がブラリと立ち寄ったのは病院だった。

 病院という場所にも、人の死が充満している。


 その気配の中で男は、落ち着く自分を感じていた。


 男が足を向けたのは、中庭だ。

 入院患者の憩いの場になっているのか、ベンチが置いてある。


 まだ朝が早い為か、人の姿はないと思っていたら、隅のベンチでぼんやりと座っている女に男は気が付いた。


 女から出ている生気は、とても弱々しいものだ。


 男はそれを見ると、ニヤリと微笑んで女に近付いていった。

 放心していた女は、男の立てる足音に気付いて目を向けてくる。


 男は、やあと爽やかに見えるよう微笑んで、挨拶でもするように、

「君、もうすぐ死ぬね」と、言った。


 女は男を見上げると、にっこりと微笑んだ。

「ええ、そうなの」



 てっきり女が怒るか泣くかと思っていたから、男は途惑ってしまった。


 反対に、困惑している男を女は案ずるように、

「どうしたの?」

 と、聞いてきた。


 もうすぐ死ぬねと言われて途惑うなら分かるが、女は当たり前にそうだと答えを返したのだ。

 しかも、返答に窮した男を、あべこべに女の方が心配して見せるとは。


 男は、その女に興味が湧いた。


 男は、隣に座るよと言いながらベンチに腰掛けざま、女に向かって聞いていた。


 名前や、年齢、そんなものに興味を覚えた訳では無論ない。

「死ぬのが怖くないのかい?」


 中には、死を怖がらない者もいる。


 怖くないと言っていて、自分でもそれと信じていても、心の底では死を怖れているのだ。

 それと気付いていない者に、死とは怖ろしいものだと教えてやるのは、さぞかし楽しいことだろうと男は思ったのである。


 但し女は、あっさりと首を横に振って、男の言葉を否定した。

「いいえ。怖いに決まってるわ。だって死んだことがないんだもの。でも、絶対に死ぬと決まっているんだもの。怖がってても仕方がないわ」


 女はそう言うと、自嘲するように笑った。


 人間は、死ぬ。


 いつかではなく、女は自分がもう先が長くないことに気付いているのだろう。

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