冥府 10
あとは外宮係に回せば、必要な書類が揃えられ、火ノ宮に転送される。
宮の仕事は、ここまでだ。
宮は、文机の上を片付けにかかっている。男は、これには手出しをせずに、ただ控えていた。
「末の弟と言えば、登用試験に何度も落ちて、母君や兄の其の方らを案じさせていたようだが、そうか。前回の登用試験には通ったのか。良かったではないか。これで心配事が減ったな」
そう言うと宮は顔を上げて、男に目顔で頷いて見せた。
男は「はぁ」と、いささか気の抜けた返事をする。
七夭兄弟の六夭までが、水ノ宮に仕えているというのに、一番末の弟は出来が悪く、ここ数年ものの見事に登用試験に落ち続けているのである。
長男である男が、一族一優秀と見なされている反面、同じ兄弟でも末弟は、一族一の無能者であった。
男の母も兄弟も、この弟のことでずっと頭を悩ませてきたのだ。
もちろんそんな家庭の事情は、一言たりとも宮には洩らしていない。
そのような些事で、宮の心を煩わせてはならぬと、男は当たり障りのない話をしていた。
それなのに。
「気付いておられましたか」
他の弟達が、登用試験を受ける時も、大方大丈夫だろうと分かっていたが、それでも合格通知が届くまで不安は拭えなかったのだ。
期待にたがわず、五夭は五夭とも、一度の登用試験で合格を勝ち得ている。しかし、一番末の弟は……。
男は試験が近付く半年ごとに、今度こそはと夭事ではなく、あんあんとしていたのだ。
自分が昇級試験に臨んだ時でさえ、これほど心が千々に乱れはしなかった。
顔にも出さぬようにしていたつもりだが、敏い宮には通じなかったようだ。
男が口に出さぬものだから、暴き立てるのも何かと、宮は気を使ってその話を避けていたものと見える。
宮は、ようやく荷が下りたとでも言うように、朗らかに微笑みながら、
「しかし手がかかるほど、可愛いと言うではないか。それで、務め先は決まったのか」と、聞いた。
男は生真面目に、ハッと短く答え一臣下の分を示す。
「内宮の方の警備で、今宵は夜回りとか」
水ノ宮には外宮、内宮、内殿、外殿とそれぞれ呼ばれる四つの建物がある。
外宮には、水ノ宮の窓口があり庶務や相談所などの外向きの業務一切を行っている。
内宮には、罪夭を収容する御書蔵があるので、水ノ宮内で、最も警備の厳しい場所となっている。
滅多にあることではないが、脱書も警戒せねばならなかった。




