出会いたい。
「おはよう。お母さん。」
「葉喜?ああ、居たのね」
ある日の休日、僕が起きた頃にはすでに出掛ける準備を済ませていた僕の母親。
「どこか行くの?」
「ええ、ご飯は自分で買ってちょうだい。それじゃあ、いってきます。」
いつもイライラしているお母さんが珍しく上機嫌。いや、これが普通なのか。
「いってらっしゃい。」
僕が声を出す頃にはもうお母さんは出て行っていた。
「…どうしよう。」
休日というのは、僕にとってはとても苦痛だ。
何をしたい、というのが僕にはないから。暇、なんだ。
とりあえず家に居ても何も無いから、外に出ようと思う。
よく、引きこもりっぽい、と言われる。だが、それは全く違くて僕は外が好きだ。
歩くことも、嫌いじゃない。ただ、走ることは嫌いだ。なんとなく。
白いTシャツにジーパン、というラフな格好をしているのは街に僕だけだった。
みんな、忙しそうに足を動かしていて、顔まで強ばっている。つまらなさそうだ。
さて、どちらに行こうか。
僕の家を出て、50mほど行き、左に曲がる。そしてまた、50mほど行くと分かれ道にたどり着く。
学校に続く道は、右。
ならば、左に行こうか。
あまり行かない方向には、楽しみという感情を抱く。
人気があまりなくて、静かだ。ああ、好きだな。
前から吹いてくる風のせいで伸びきった髪の毛が目に入る。
今週末にでも切りにいこうかな。
そんなことを思っていると、またもや分かれ道。
ここからは完全に未知の世界。まあ、どこでも未知の世界だが。
左?右?
先程は左だった。なら、今度は右にしよう。
右に曲がると、さらに人気がなくなった。
心做しか、薄暗くもなった気がする。
「にゃーん。」
明らかに人の声。
「にゃーん。」
猫の鳴き声のマネをしているのか。
「むぅ…おいで?猫ちゃん」
ああ、猫を呼ぼうとしているのか。それならば、奇妙な鳴き声も納得。
声はしているが、姿は見えない。どこだろう。
周りを見渡して、声の持ち主を探す。
いない。どこだ。いない。
どうして、こんなにも。
君に会いたいんだろう。