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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第九章 新たな出会いはバトルの幕開け!?
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第92話 金色の夢

【桜庭瑞希】


「洗濯かい、瑞希君?」

「あ、山南さん!」


井戸の近くでバシャバシャと袴の洗濯をしていると(洗濯機が恋しいと思った)、穏やかな微笑を浮かべた山南さんが声をかけてきた。


「そうなんですよー。結構たまっちゃったんで」

「にしても多いようだけれど……?」

「……他の人にも頼まれました」


ーーー沖田さんとか、原田さんとか、ets。


「一人でその量は大変だろう。私も手伝おう」

「ええっ!?いやいや、山南さんにそんなことさせるなんて!!」


仮にも上司だし!!


「いや、構わないよ。どうせだし、自分の分も洗濯してしまおう」

「は、はぁ」


ーーーうーん?


山南さん、今日は、というか、いつもニコニコしてるけど……とりわけ上機嫌?


「山南さん、なんか嬉しそうですね」

「ああ、そりゃあもちろん、もう少しで暑い季節も終わりだからね」

「あーなるほど」


そういえば山南さんは夏が苦手だったっけ。



自分の分の洗濯物を持ってきた山南さんとともに洗濯板でバシャバシャと汚れを駆逐していく。


「んーっ、あと半分かぁ」

「こうして見るとかなり多いね」

「ですねぇ」


まったく、みんなして貯めるものだからなぁ。


「洗濯機ほしー」

「え、せんたくき?」

「あ、いえ、なんでもないです」


思わず心の声が漏れてしまったらしい。


慌ててごまかすと、山南さんは少し不思議そうに首をかしげたが、それ以上食い下がることはなくて安心した。


そんな、手元に視線を移した山南さんの横顔をちらりと見て思った。


ーーー結構睫毛長いんだなぁ。


晴明君みたいな、儚げな、守ってあげたくなるような中性的さはないが、色白で線の細い、端正な顔立ちをしていることは間違いない。


「……私の顔に何か付いているかい、瑞希君?」

「へ!?」


うわ、しまった!!

思わず見つめちゃったよ!


「い、いえ、なんでもないです。……ただ、その、山南さんはお兄ちゃんみたいだなぁって。まぁ、私は兄弟姉妹はいないんですけど」


もしかしたらいるのかもしれないけどね。


私の言葉に、山南さんは驚いたような顔をしたがすぐに小さく吹き出した。


「ははは。そう言ってくれるのは嬉しいけれど……私の年だと兄弟というよりは親子と言った方が正しいかもしれないね」

「ええっ!?山南さん、まだそんな年じゃないでしょう?」

「私はもう30だよ」

「えええっ!?」


まじですか!?


「20代かと思いました……」

「私としては複雑だなぁ。あまり年上の貫禄というものがつかなくてね。私は幼い頃からよく年下に思われがちで……よく、頼りなく見えると言われたよ。土方君や近藤さんのような威厳もないしね」


困ったように、そう言って笑う。


「山南さんは頼りなくないですよ!というか、山南さんは山南さんのままがいいです!だって、上司がみんな土方さんのようだったらそんな職場地獄ですもん。それに、山南さんはみんなに負けないくらいイケメンですし!」

「……いけめん?」

「あ、いえ、その、かっこいいってことです!」


ーーー「イケメン」なんて言葉、そういえばなかった。

あれ、なんか前もこんなことがあったような?

成長ないな、私。


「……ありがとう、瑞希君」

「へっ?」


ーーー洗い物の手を止めた山南さんが、私の方へ優しく微笑んで言った。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう」

「あ、いえ……」


ーーーうーん。


やっぱり山南さんは「優しいお兄ちゃん」に見えるなぁ。


「……ん?」


ふと、山南さんの視線が私から外れ、私の斜め後方あたりに視線を止めた。


「山南さん?」

「……今……」

「???」


振り返って彼の視線をたどるが、そこにはいつもの光景が広がっているだけだった。


「ああ、いや……今、一瞬金色の不思議な蝶が飛んでいたような気がしたんだが……気のせいか……?」

「金色の蝶?」


ーーー金の蝶なんているのか?


「……しかし、気のせいだったみたいだ。金の蝶なんて聞いたことないからね。私の見間違いだろう」

「そうですか……?」


ーーー金の蝶。


ーーー金。


ーーー金の髪と瞳。


ーーーあれ?


いま、何かを思い出しかけたような……?


気のせいかな……?


それから何度か山南さんが金の蝶を見たという場所を探してみたが、ついぞやそれが姿を表すことはなかったーーーーーーーーーーーーーーー。



********************



【山南敬助】


屯所の庭で、金の蝶を見た……気がしたその日の夜、私は奇妙な夢を見た。


ーーー「誰か」が、私の名前を呼んでいた。


「……いで」


その人は、悲しげな、すがるような視線でこちらを見つめている。


ーーーゴウ、と、ひときわ大きな風が吹き、その人の金色(・・)の髪が舞い上がる。


ーーーそういえば、こちらを見上げるその瞳も、金色だった。


「……しないで」


ーーーあなたは、何を言っている?


近いはずなのに、声が遠くて聞こえない。


ーーー私はこの人を知っている。


直感的に、それだけはなぜかわかった。


けれど、顔はよく見えない。


肝心のところが見えない。


ーーー知っているはずなのに。


思い出せない。


ーーー思い出したいような。


けれど、それを知るのは今じゃない(・・・・・)、そんな気がする。


ーーー私は……。


ーーー一体何を忘れているのだろうか……?



********************



【安倍晴明】


「っ!」


ーーーこの気は……。


ーーー道満……。


ほんの一瞬でしたけれど、あれは確かに……。


ーーーわからない。


僕には、あなたの考えていることがわからない。


あなたの目的も、あなたがここにいる理由も、なにも……。


ーーー道満、あなたとは「あの日」以来、会っていない。


ーーー僕が、「あの人」と、最後の約束をした日から、ずっと……。


ーーー道満。


ーーー僕の、大切な「友人」。


だからこそ。


僕はあなたにも傷ついて欲しくない。


だから。


ーーーもしもできるのならば。


どうか。


僕に全てを打ち明けてください……。


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