第9話 晴明君の病状
【桜庭瑞希】
「き、桔梗君っ!!!!」
倒れた晴明君を慌てて抱き上げる。
「桔梗君っ!?」
呼びかけるが気を失っているらしく、返事はない。
抱き上げた彼の体は驚くほど熱かった。
華奢な肩から伝わる小刻みな震えに、私は全身の血が引いていくのを感じた。
「……総司、運んでやれ」
「僕の部屋でいいですよね?」
「ああ」
「了解」
ーーー件の青年も、今では笑みを消し、真剣な表情で頷いた。
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晴明君は軽々と抱えられ、別室に移された。
晴明君を抱えた時、青年は驚いたような顔で「軽い」と言っていたーーー。
布団に寝かされた晴明君の白い整った顔は青ざめ、苦痛に歪んでいる。
息は乱れ、額には玉のような汗が浮かんでいた。
「……今、医者を呼んでいる」
土方さんはそう言って外の縁側に腰掛けた。
「水汲んできましたよ」
そう言って泣き黒子の青年はタオルと水を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……えっと……」
「沖田総司。それが僕の名前です」
や、やっぱり。
土方さんに「総司」って呼ばれてたからそうだろうとは思ってたけど。
ほんと、すごいところに来ちゃったな。
私はどちらかというと平安時代の歴史が好きだけど、もちろん幕末の新選組も好きなんだよね。
ーーーああいけない。
今はそれどころではない。
晴明君の額に水で濡らしたタオルを乗せる。
けれど、タオルは熱ですぐに暖かくなってしまう。
……せめて、私の現代で使っていた通学カバンがあればよかった。あれにはいろんな状態に効く薬が入っている。
こんな風邪、バッ○○リンがあれば一発なのにっ!!
ーーー失ってからそれの大切さに気がつくとは、よく言ったものだね。
やはり君が恋しいよ、素晴らしきかな、科学の叡智。
いや、そんなことよりも。
なんで晴明君がこんなになるまで気づかなかったんだよ、私。
そういえば、森で抱きとめられた時晴明君の体が少し熱かった気がする。
どんだけ鈍いの……。
今回は流石にへこんだよ。
さっきまで尋問を続けていた土方さんたちも、さすがにこんな状態の晴明君を問い詰めるわけにもいかないのか、部屋の外の縁側で待機している。
しばらくのち、土方さんが呼んでくれたお医者さんが到着した。
「風邪だ、が……少し熱が高いな。起きたらこの薬を飲ませるといい」
「ありがとうございます」
お医者さんはそう言って私に幾つかの薬と水差しを渡してくれた。
この時代の薬が効くかはわからない。少しでも晴明君が楽になるといいけど……。
「……お前たちにはまだ色々聞きたいことがあるが、とりあえず今は仕方ない。病状が安定したらまた来る。……総司、お前も来い」
「はい」
そう言い残し、二人はその場を後にした。
……。
「起きたらって言ってたけど……」
この薬、早く飲ませてあげたほうがいいよね?
どれだけ効くかはわからないけど、ないよりはましだと思う。
少しは体調もましになると思うんだけど。
どうしようか?
「う……」
「桔梗君!!」
長い睫毛が震え、紫色の瞳が開かれる。
「……さく、ら、ば、さん……?」
「喋っちゃダメだよ、桔梗君」
「……」
こくり、と頷き、辛そうに目を閉じる。
「あ、待って!まだ寝ないで!……薬、飲んで欲しいの。起きられる?」
「薬……?」
「そう。さっきお医者さんが置いていったのよ」
「……わかり、ました」
晴明君の背中を支え、なんとか起き上がらせ、粉薬を飲ませる。
もう一度横になると、晴明君は体力を使い果たしたのかまた気を失うように意識を手放した。
「桔梗君……いや、晴明君……。早く良くなって……」
スパン。
「え……?」
「晴明君って、誰のこと?」
「っ!?」