第85話 逃れられぬ歴史
【桜庭瑞希】
「さて、と。それでだけど……」
「八月十八日の政変」から2日後の20日。
晴明君の風邪も治り、次の大事件……芹沢さん粛清についてのを「秘密会議」を私の部屋で行うことになった。
メンツはいつもの通り、私、晴明君、沖田さんである。
「どうやって阻止するか、ですね……」
「もういっそ阻止しないって手もあるけど?」
「沖田さんっ!!」
「はいはい。わかっているよ」
沖田さんは私が睨むとひょいっと肩を竦めた。
「で、瑞希ちゃん?そう言うからには何かいい案でもあるの?」
「そ、それは……ま、まだですけど……」
「じゃあ晴明君は?」
「……そうですね。芹沢さんの粛清の原因となるすべての事件がすでに起こってしまっている。本来ならば、その『原因』から排除するのが有効ですが、それはできないのですよね……。かなり難解な問題です」
厳しい顔つきで瞳を伏せる晴明君。
どうやら、長い睫毛を落として下を向くのが彼が何か考え事をしている時の癖のようだ。
「それじゃあ……土方さんか近藤さんに『芹沢さんを粛清しないでください』って直接頼みに行く、とか?」
「瑞希ちゃん、それ、本気で言ってる?」
私の提案に恐ろしく冷ややかかつアホな子を見る目をした沖田さんがそう言ってこちらを見下ろしてきた。
「そんなこと言ったら後で大変なことになるってことくらい、わかると思うけど?芹沢さんが自身の粛清に必要な事件をもう全部起こしてくれちゃったってことは、土方さん達の心の中に『粛清』の二文字がちらついてるってことだよ?そんな中でそんな馬鹿な発言したら君こそ粛清されるよ?正直、僕は別に芹沢さんにこだわりがあるわけじゃないから粛清を命じられても仕方ないかって思えるかもしれないけど、君の粛清を命じられるのは気がひけるんだけど?」
で、ですよね。
私もさすがに芹沢さんと一緒に粛清はいやだわ。
ーーーん?
あれ?
つまり、沖田さんは芹沢さんにこだわりはないからいいけど私はダメってことは……。
それってつまり……?
「沖田さん、私には一応こだわりを持ってくれてるってことですか?」
ーーーその言葉に、沖田さんの動作が一瞬止まる。
が、すぐにいつもと変わらない様子取り戻すといつもながらの微笑を浮かべた。
「そりゃあ、君がいなくなったら僕の玩具がなくなるじゃないか」
「……デスヨネー」
まぁ、別に期待はしてなかったよ。
と、隣からクスッと笑い声が聞こえてきたのでそちらの方を向いてみると口元に手を当てて目元を和ませてこちらを見やる晴明君と目があった。
「と・に・か・く!!ちゃんと問題を考えないと……むぐっ!?」
いきなり沖田さんに口を塞がれ、と、同時にこちらへ近づいてくる足音が聞こえて……。
ーーーーースパン。
そこに立っていたのはいつになく真剣な表情をした原田さんだった。
「……総司。ちょっといいかい?」
「どうかした?」
「近藤さんたちが呼んでいる」
ーーー原田さんの表情と沖田さんが呼ばれたことから、私はいやな予感を覚え、立ち上がった。
「原田さん」
「っ、瑞希?」
「私も、行っていいですよね?」
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「……失礼します」
「ああ、来たか、総司、左之……って、なんでお前たち2人までいる?」
入室した沖田さんたちを出迎えた土方さんが、その後ろがついて来た私と晴明君を見て顔を険しくした。
「すみません。俺が総司を呼んだ時、2人がいて……」
「原田さんは悪くないです。私が強引についてきたんです」
近藤さんの部屋には私の予想通り、近藤さん、土方さん、山南さんの三人が集まっていた。
私はこのメンバーに聞き覚えがあった。
「馬鹿野郎。追いかえ……」
「芹沢さんのことですよね」
「な!?」
土方さんが大声で怒鳴り終える前に私は声を落とし、そう聞いた。
「なんでそれを知っていやがる」
原田さんが戸を閉めたのを確認した土方さんが私をものすごい形相で睨み、ゾッとするほど低い声で言った。
「原田さんがあんな顔で沖田さんを呼んでいて、しかもここ最近芹沢さんが色々とやらかしてることも考えればわかります。……桔梗君が色々と助言してくれましたし」
ここに向かう途中に考えておいた言い訳をなんとか声を震えさせずに言い終えると土方さんは一層眉間にしわを寄せ、押し黙った。
「……できれば君達2人は巻き込みたくなかったんだがね」
声の方を見ると近藤さんが複雑そうな表情で私と晴明君を見比べていた。
「私も同意見ですよ。ここにいれば、この話を聞けば、きっと後悔する」
向かいに座った山南さんも苦い顔で首を振った。
「……後悔なんて、もうとっくの昔にしてますよ」
ーーー芹沢さんの暴挙を止められなかった時点で。
「話してください。私たちにも。それ相応の覚悟はすでにできてますから」
私はそう、まっすぐに近藤さん達を見据えて言った。
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【土方歳三】
ーーークソッ。
こいつが来るのは想定外だ。
こいつは、瑞希は気づいているんだろう。
俺たちが、今から総司達に話すつもりだった事柄を。
こいつにしては頭の回転が早いとは思ったが、小鳥遊の助言付きとは厄介なことになった。
ーーー何がそれ相応の覚悟だ。
俺らが今からやらなきゃならないのは、そんな、自ら首を突っ込みたいようなもんじゃねぇことくらい、お前にも分かってるだろうが。
だっつーのに。
ーーーなんてまっすぐな目をしていやがるんだよ。
全てを分かった上で。
それでも自らも「業」を背負おうとする。
まったく、お前はとんでもない女ぜ、桜庭瑞希。




