第83話 八月十八日の政変(2)
【桜庭瑞希】
御所の蛤御門へと到着。
近藤さんと芹沢さんは局長なため、小具足っていうやつを着込んで烏帽子をかぶっていた。
ーーーそういえば、芹沢さんって、近藤さんと同じくらい偉いんだよなぁ。
それで、このまま歴史通りに進むとすると……。
「貴様ら、何者だ!!」
「ここは何人たりとも通さん!!」
門の警備の人たちが警戒したように私たちをにらみ、槍を突きつけてきた。
ーーーうわぁ、これは圧巻だ。
先端恐怖症なら一発で気絶するわ。
と、そこで、予想通り、というか、歴史どうりに、芹沢さんが一歩踏み出すと帯から鉄扇を引き抜き、それでパタパタと仰ぎながらからかうような口調で言った。
「我々は会津藩預かりの壬生浪士組である。無礼して後悔するな?」
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「……ねぇ、瑞希ちゃん。あの発言が、歴史に残ってるわけ?」
私の隣に立つ沖田さんが楽しげな表情で、私にしか聞こえないように声を落として囁いた。
「そうですよ。こう見ると芹沢さん、結構かっこいいんだけどなぁ……」
「あの人は酒が入ると手がつけられないからね」
「酒は身を滅ぼすって言いますから」
「それは言い得て妙だね」
クスリと笑った沖田さんは芹沢さんを見やり、頷いた。
「……ところで沖田さん」
「ん?何かな?」
「今思い出したんですけども」
「なに?」
「……そういえばこの事件じゃ人、斬らないはずなんですけど。ってかそもそも戦闘にすらならないんですけど」
「だろうね」
「知ってたんですか?」
「いや、普通わかるでしょ。こんだけの人数で警備してるんだから長州だって馬鹿じゃない。さっさと逃げるなり投降するなりするよね」
「……じゃあ沖田さん」
「ん?」
「……さっきのなんだったんですか……」
今更ながら、「八月十八日の政変」では別に戦闘にならない
ーーーなんで忘れてた、私!?
それなのにあんな決意表明みたいのしちゃって、めちゃくちゃ恥ずかしい奴じゃないかっ!!
「顔が赤いよ、瑞希ちゃん♪」
「だ、誰のせいだと思ってんですか!!」
「さぁ?忘れてた瑞希ちゃんが悪いんじゃない?」
「うぐっ!」
ーーー最近忘れかけていたが。
やっぱりこの人ドSだぁっ!!!!!
「僕はちょっと確かめてみたかったんだよ」
「確かめてみたかった?」
なにをだ。
「君が、この時代で生きて行く覚悟」
「!!」
「でも安心した。多分、君はこれから人を斬ってもちゃんと前に進めるよ、瑞希ちゃん」
「なっ……」
ーーーそ、そんな言葉……!!
しかも、沖田さんらしくない優しい笑顔でなんて!!
ーーー反則だっ!
「ふふっ、顔が真っ赤だよ、瑞希ちゃん?」
「う、うるっさいです!もう私行きますからっ!!」
沖田さんのからかう調子の言葉が返ってくる。
赤くなった顔をこれ以上見られないようにすべく、私はそう怒鳴りながら沖田さんから背を向けたーーーーーーーーー。
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【沖田総司】
あはは。
可愛い瑞希ちゃん。
真っ赤だね。
ーーー僕に、ちょっとはときめいてくれたみたいだね?
でもこれだけで真っ赤になるなんて、本当に初心だなぁ。
ねぇ瑞希ちゃん。
もっとその顔見せてよ?
そういう、「女の子の顔を」を、さ。?
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【山南敬助】
ーーー瑞希君たちは頑張っているだろうか。
開いた襖の外を見やりながらそんなことを考える。
「ん……ケホッ……ケホッ……」
と、部屋に苦しげな咳き込む声が上がった。
「ふむ……」
そちら……布団で眠る桔梗君に視線を戻し、その顔を覗き込む。
「……この前よりは高い熱ではないが……」
ーーーこの少年はここに来て、すでに3回も寝込んでいる。
あまり体が丈夫ではないのだろうか?
「う……」
「ああ、起こしてしまったかい?」
うっすらと瞼が開き、紫色の瞳が覗く。
ーーーこの瞳は実に珍しいな。
髪の色も普通とは違う。
もしかしたら、彼は異国の血が入っているのかもしれない。
「……いえ……」
「水でも飲むかな?」
「はい……」
身を起こすのを手伝ってやり、用意しておいた湯呑みを渡す。
「……ありがとうございます」
「いや、礼には及ばないよ。ところで、君はあまり体が丈夫ではないのかい?前まで寝込んでいた私が言うのもなんだがね」
すると彼は少し困ったような淡い笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「……ええ、まぁ。幼い頃からよく体調を崩していましたから」
「そうか……。確かに、君は食が細いからね。しっかりと栄養を取らないといけないよ」
「そう、ですね」
紫の瞳は熱のせいかぼんやりとしていたが、それでもなお、どこか寂しげな影がうつった。
「……どうかしたかい?そんな顔をして」
「え……?」
「寂しそうだよ、君」
「っ……」
「すまない。別に私は君が言いたくないようなことを問いただすことはしないから安心しなさい」
「……ありがとうございます。けれど、僕は大丈夫です」
「そうかい?瑞希君が言ってたよ。君の『大丈夫』ほど心配なものはないってね」
そう、からかい半分にいうと彼はバツが悪そうな、困ったような表情を浮かべた。




