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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第八章 「歪み」を正す力
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第80話 歴史の修正力

ーーー新八君たちの報せを受け、駆けつけた時にはすでに自体は収束向かっていた。


「……ひどい……」


芹沢さんが酔って焼き討ちにしたという大和屋は見るも無残な状態で、等の芹沢さんはというと、他の隊士に連行されていったとのことだ。


「……この事件、今日だったんだ……」

「この件は未来にも残っているのですか?」

「うん……」


また、一つ、歴史を変えられなかった。


幸いなのは死人が出なかったことだけだ。


「仕方がありませんよ、瑞希さん。気を落とさないでください」


そう言って晴明君は私のことを慰めてくれた、のだが……。



しかし、この後、事態は私の予想を上回る方向へと動くことになるーーーーーーーーーーーーーー。



芹沢さんが大和屋を焼き討ちにした次の日、つまりは8月5日(・・・・)ーーー。


芹沢さんが「吉田屋」という場所で、暴れ、そこの芸妓、小寅さんと小鹿さんの髪を断髪させるという狼藉を働く事件が起こった。


結果、芹沢さんの腹心だった新見錦がその責任を問われ、切腹を命じられた。


ーーーそして私は。



********************



「歴史が早まっている?」


ーーー私の訴えを聞いた沖田さんがそう言って目を見開いた。


「……はい」


ここまでくれば、さすがの私も気づいた。


ーーー明らかに、歴史が進むのが早すぎる。


佐伯さん暗殺の報を聞いた時の「違和感」はこのことだったのだ。


佐伯さんが暗殺されたのは佐々木さんの件の次の日の夜……つまり、8月3日。

そんな日に、誰かが殺されたなんてことがあった記憶はない。

そもそも、連続して誰かが死ぬ(佐々木さんは助けられたが)事件が戦いかなんかがあったわけではないのに起こるなんてことはなかったはずだ。


その上、芹沢さんの大和屋焼き討ちも、起こったのは8月4日。おそらくこんなに早く起こるものではない。


あまりにも歴史が早く進みすぎている。


ーーーまるで、何かの帳尻を合わせようと躍起になっているかのように。


「今回の『改変』は恐らく……佐々木さんの死の運命を変えたことに起因することでしょう」

「……それは……私たちが歴史を変えたから?」

「ええ、恐らくは」


晴明君は紫の瞳を少し落とし、考え込むようなそぶりを見せた。


「これは、もしかしたら佐々木さんを助けた結果の『歴史の修正力』によるものなのかもしれません」

「え、それじゃあ……」


私がやったことが認められなかったってこと?


「ねぇ、『歴史の修正力』って何なの?」


眉間にしわを寄せた沖田さんが私たちの顔を見比べて言った。


「『歴史の修正力」とは、変えてしまった歴史を正そうと帳尻合わせをする力のことです」

「……ねじれを正す力ってことか」

「ええ、そのように解釈いただければよろしいかと」

「で、佐々木さんを助けたことと、新見さんの切腹が、どんな関係があるっていうのさ?というか、そもそも、それほど問題じゃないよね?ちょっと早くなったくらいじゃ」

「問題がないわけではないですが……確かに、そうですね。もしかして、瑞希さん、まだ僕たちに伝えていない情報があるのでは?」

「あ!そうだった!!」


まだ「あのこと」についていってなかったんだ!!


「あのですね、実は、新見さんの切腹は本来9月なんです。何日かはわかんないんですけど、ただ、そのすぐ後に……9月17日に……その……」

「なにがおこるわけ?」

「…………芹沢さんが内部粛清されます」

「「……」」


ーーー思い沈黙が流れる。


2人は、特に沖田さんは余計に驚いたのか、ポカンとした顔で固まっている。


「……それ、本当?冗談じゃなくて?」

「冗談なんかじゃないです。というか、冗談にしては趣味が悪すぎるでしょう」


一番言っちゃいけないタイプの冗談だよ、それ。


「……つまり、歴史が早まっているってことは、芹沢さんの粛清も早まる可能性がある、ということですね?」

「うん……」


できれば、芹沢さんの件も変えたかったけど、このままじゃ無理だ。


「このまま行くと、明日にでも粛清、なんてなりかねないね」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ沖田さん!それに、多分今すぐに、ということはないと思います」

「どういうこと?」

「今月の18日に長州の倒幕派の人たちを会津藩と薩摩藩で京都から追い出す『八月十八日の政変』っていう事件があるんです。そこで起こったことを書いた記述に、確か芹沢さんが登場するんです。もし、その前に芹沢さんが粛清されたらまた歴史が変わっちゃうじゃないですか。だから、取り敢えず18日までは大丈……い、いひゃい!」


言葉の途中で黒い笑顔の沖田さんに両頬をグイッと引き伸ばされた私は堪らず抗議の声をあげた。


「にゃ、にゃにふるんですか!!」

「どうしてそんな大事件、黙ってるのかなぁ、瑞希ちゃん〜?」

「わ、わふれてはんへすよ」

「忘れてたぁ?」


く、黒い!!


笑顔が真っ黒ですよ、沖田さん!!


それから晴明君が仲裁に入ってくれてなんとか解放された私は頬をさすり沖田さんを睨みつけた。


「まったく……毎回毎回直前になって言うよね、そういうこと。よし、決めた。これから毎月1日に作戦会議開くから、その時その月に起こることいいなよね?」

「わ、わかりましたよ……」


隣でクスクス笑っている晴明君がほんの少し憎い。


「……とにかく、まずはその18日に起こるっている長州討伐から先に片付けないとね。芹沢さんの件は後回し後回し。どうせ助けられない時は助けられないし、そもそもが自業自得なんだから」

「うわぁ、血も涙もない……」

「なんか言った?瑞希ちゃん♪」

「……いえ、なんでもないです」


なんでもないので、その目が笑っていない笑顔で私を見るのはやめてください。


「とにかく、まずはその『八月十八日の政変』からですね。その後、芹沢さんの件について考えましょうか」

「……そうだね」


取り敢えず、今は次に来る事件を乗り切ることを考えないと。


今月は目白押しの月になりそうだなぁと思いつつ、今日の「秘密会議」は終了した。


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