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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第七章 咲き乱れし恋と波乱の予感
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おまけ小話② 沖田さんの弱点

とある日の夕方。


「うわぁ、スコールだ……」


天気はあいにくの雨模様で、しかも、勢いよく降り注ぐ雨は痛いぐらいに地面を叩き、分厚い雲に覆われた空はまだ日没には遠いはずなのに薄暗い。


「すこーるってなに、瑞希ちゃん?」


私の部屋の前を通りかかった沖田さんがそんな疑問を投げかけてくる。


「あ、沖田さん。……スコールっていうのは、簡単に説明すると突然の大雨のことです」

「ふーん?まぁ、確かに今日の雨はすごいよね。昼の巡察に行っていた隊士がびしょ濡れになったみたいだよ。ご愁傷様だね★」


ざまぁ♪とでも言いたげな調子の沖田さんは心底楽しそうな黒笑を浮かべている。


……流石はドS。


「……というか、沖田さんは巡察担当じゃなかったんですね」

「まぁね。僕は運がいいんだよ」

「日頃の行い悪いのに運いいんですね」

「何か言ったかなぁ瑞希君(・・・)?」


……ブルリ。


い、凍てつくような冷気がっ!!


沖田さん、顔は笑ってるけど目は笑ってないですよっ!!


というか、最近この人、怒ると私のこと、誰も聞いていなくても「瑞希()」って呼ぶようになったな。


その表現がまた結構怖いのだ。


「そ、それにしても、よく降りますねぇ、雨〜」


慌てて話題をそらすべく、外へ目を向ける。


相変わらず、大粒の雨はバケツをひっくり返したみたいに降っている。


「このままだと夜の巡察、中止になるかもしれませんよ」

「さぁ、どうかな。僕としては、別に今日は僕の担当じゃないし、面白いから中止になんなくて構わないんだけどね♪」

「……」


……うわ。

この人鬼畜だわぁ。


「一応聞きますけど、今日の夜の巡察担当って誰なんですか?」

「ん?新八と左之だよ♪」

「あ、その二人なら大丈夫ですね」


あの二人なら、なんか風邪ひかなそうだし。


「瑞希ちゃんが巡察担当でも大丈夫じゃない?」

「どうしてですか?」

「ほら、『馬鹿は風邪ひかない』って言うし?」

「……それ、つまり私が馬鹿だって言いたいんですか」

「え、僕はそんなこと言ってないよ?そんな風に自分を卑下するなんて、身に覚えがあるのかなぁ?」


にっこりと人を明らかに馬鹿にしている笑みを浮かべる沖田さん。


ーーーあー言えばこー言う。


なんで隙のない人なんだ。


「沖田さんって、弱点とかないんですか?」

「なにを突然、藪から棒に?」


少し目を見開いた沖田さんが首を傾げて言う。


「だって、なんか悔しいんですもん」

「……なんで君、急に幼児退行したの?」

「よ、幼児退行……」


……いやまぁ、確かに似てるかもしれない………。


ーーーと、その瞬間。


ーーーピカッ。


ゴロゴロガッシャンッ!!


「あ、雷!」


暗雲が突如ピカリと光り、数秒後、耳にキーンッ!と響く大きな音が聞こえてきた。


「おー、今の、結構すごかったですね…………沖田さん?」


振り返って沖田さんの方を仰ぎ見るとその表情が僅かに強張っているのが見て取れた。


ーーーピカッ。


ゴロゴロガッシャンッ!!!


さっきよりもひときわ大きく、その上ほんの少し近づいた雷の音が響き渡る。


「っ……」


ーーーその瞬間、沖田さんの肩がほんの少しだがビクリと震えた。


「……」


顔に張り付いた笑みはわかりにくいにしてもちょっと引きつっている。


「……まさか……」

「……」


ーーーいやいや、まさか?


「…………ひょっとして沖田さん、雷、苦手ですか?」

「そんなわけなーーーー」


ーーーピカッ


ゴロゴロガッシャンッ!!!!


「っ……!!」


ーーー今度はわかりやすいほどに顔がこわばる。


「……沖田さん。雷、苦手ですね?」

「……」


眉根を寄せ、押し黙る沖田さん。


ーーーマジか。


こんなにわかりやすい沖田さん、初めて見たぞ?


というか、あのほぼ無敵な沖田さんが雷が苦手、だなんて……。


ーーーちょ、ちょっと萌えるかもしれない。


さっきので全て放電し切ったのか、それ以上雷が鳴ることはなかったが、さすがの私も沖田さんの意外すぎる「弱点」には気づいた。


「沖田さんにも、苦手なものなんてあったんだ……」

「……瑞希ちゃん」


ゾクリ、と、背筋を冷気が駆け抜ける。


ハッとして沖田さんを見上げるとそこには目の笑っていない極上の笑みを浮かべた大変お怒りの沖田さんがいた。


「……は、はいっ!!」

「僕が言いたいこと、分かるよね?」

「い、言いませんよっ!!誰にも言いませんよっ!!」

「……約束だよ?」


しますっ!!

約束しますからっ!!


こくこくと壊れた人形のように何度も首を縦に振る。


「破ったら……お仕置き、だから」


そう、低く言うと沖田さんはくるりと背を向けて自分の部屋へ引っ込んでいった。


こうして私は沖田さんの「弱点」を知ることになったのだが、それからしばらくの間、沖田さんに口をきいてもらえなくなったのである。


ーーークワバラクワバラ。


ーーー雷だけに。


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