第7話 奇妙な2人
突然ですが、題名を変えました。
【土方歳三】
総司との巡察中、珍妙な二人組を見つけた。
1人は妙に布の少ない、異国の人間のような格好をした女だった。
年は、13か、4か。
腰まである癖のない黒髪をなぜか結いもせずにおろしている。
色気はこれっぽっちもないし、本当に女かと疑いたくなるような絶壁なガキのような体型だがーーーといっても実際にガキだがーーー顔は、まぁ、童顔だがそれなりだな。
その女は俺を見た途端目を丸くして俺の名前を呼んだ。
「……土方、歳三……」
俺に、こんなガキの知り合いはいない。
長州の間者か、と、俺は瞬時に思った。
もう片方の男は、いけ好かない公家の格好をしていて、そして女みたいに整った顔をしていた。
その上、顔立ちも、髪の色や瞳の色も、俺たちとは違う。
俺はこの二人を壬生浪士組……俺たちの屯所へ、連れて行くことにした。
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二人は屯所に連れてきてもおとなしく、女の方も特に騒ぎ立てる様子はない。どうやら、肝はかなり坐っているらしい。
それに気づいたらしき総司が興味深そうに女を観察している。
ったく。
あいつはああいうものにしょっちゅう興味を持ちやがる。
今頃自分の玩具にしたくてうずうずしてるんだろうよ。
「お前たちは何者だ?長州の間者か?」
「ち、違います」
「間者は皆そういう」
俺のその言葉に、女はムッとした表情を浮かべ、俺を睨みつけてきた。
ふむ、なかなか肝の据わった女だ。
女なぞ、怯えるか色気に任せてすり寄ってくるかどちらかと思っていたが、この女は違うらしい。
対称的に、男の方はぼんやりとした表情で座っている。
「土方さ〜ん。面倒なんで斬っちゃいます?」
「いや、ちょっと、斬る!?」
総司の言葉に、女が抗議の声をあげた。
「だって、この二人、明らかに怪しいじゃないですか。変な格好だし、土方さんの名前知ってるし」
ーーー総司のもっともな意見に、女がぐっと呻くように押し黙る。
もっとも、目は言いたいことが山ほどあるようだったが。
とはいえ、そこははっきりさせておかなければならない。
総司が言っていることには、俺も疑問を持っていたからな。
……この女は何かを隠している。
狩衣姿の男は相変わらず感情のよめねぇ顔で俺と総司を見比べていた。
特に俺は、この男が公家が着るような格好なのが引っかった。
「まて、総司。その女はともかく、もう片っ方……変な色のやつが着ているのはいけ好かない公家の格好だ」
「う〜ん。確かにそうですねぇ。じゃあ聞いてみましょう。あなた誰ですか?」
男は困惑した表情で総司を見返し、口ごもる。
ってかおい、総司!んな率直に聞くやつがあるか!
「あ、自己紹介まだでしたよね。私は桜庭瑞希で、こっちは……き、桔梗!!小鳥遊桔梗ですっ!」
俺の質問に、なぜか女の方が慌てたような早口でそう言ってきた。
……こいつは一体何を焦っているんだ?
「……小鳥遊桔梗です。よろしくお願いします」
急に羞恥に顔を染めた女を尻目に、男は女みたいな笑みを浮かべた。
「小鳥遊桔梗。お前は公家か?」
「……いいえ」
「ならばなぜそんな格好をしている?」
「……」
尋ねてみるも男は何も言わなかったが、代わりに女の方が文句を言ってきたので少しすごんでみるとムッとした表情で謝罪された。
やはり、この女はそこらへんの気の弱い女とは一味違う。
なかなかに、面白い。
「……土方さん、と言いましたね?」
「なんだ?」
今まで自分からは何も入ってこなかった男が口を開く。
そして妙なことを言ってきた。
「殺したければ殺せばいい」
「僕は化け物だ」
男の目はまるで死人のように虚ろで、どこか諦めているような感じがした。
その男の目に、俺は総司が人を殺すときの笑みと同じようなものを感じた。
「土方さん」
女が、何やら意を決したような視線で俺をまっすぐに見上げてきた。
「私たちは、長州の間者ではありません」
「証拠は?」
「ないです。だから信じてくれとしか言いようがない。私たちは間者なんかじゃないっ!!」
俺は冷たく女を見下ろしたが、負けじと女の方も俺を睨み返してくる。
本当に、面白い。
俺はそう思った。
俺が総司に話を振ってやると、総司も女を気に入ったのか2人をしばらく屯所に置いて様子を見ればいいと言ってきた。
それに関しては近藤さんの話を聞かなければならないが、あの人ならおそらく了承するだろう。
女はホッとしたように隣の男の名前を呼び、が、その表情は怪訝なものへと変わる。
何かと思って男の方を見ると、何やら様子がおかしい。
「ちょっと!顔色悪いけどどうしたの!?」
女が男の肩を掴み男の顔を覗き込む。
男の顔色は俺からでもわかるほどに悪く、青ざめている。
直後、男の体が傾いたーーーーーーーーー。