第66話 肝試し大会
【桜庭瑞希】
「肝試し?」
昼の巡察を終え、部屋でごろごろしていると新八君が私の部屋にやってきた。
なんでも、今夜近くの林の中にある墓地で肝試しをするらしい。
まぁ、確かに7月に入ったばかりとはいえ、だいぶ暑くなってきていて、半袖短パンが恋しくなっていたし、今日は夜の巡察もないので参加することにした。
参加メンバーは、新八君、原田さん、平助君、山南さん、斎藤さん、晴明君らいつものメンバーとあとは新八君のお友達隊士の人達で、こういうイベントには真っ先に参加しそうな沖田さんは残念ながら夜の巡察担当で泣く泣く土方さんに連行されていった。
ドンマイ、沖田さん。
私が沖田さんの代わりに楽しんでくるから!
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「う、うわ。暗っ」
このあいだの誘拐事件の時にも思ったが、当たり前ながらこの時代に「街灯」などという便利なものはない。
よって、夜になるととにかく暗いのである。
ゆえに真っ暗な月明かりのみの夜の、林にある墓地など、その辺の遊園地にあるお化け屋敷なんかよりもよっぽど雰囲気が出ていた。
「で、新八君、肝試しって、具体的に何するの?」
「ん?ああ……そういやまだ説明してなかったな」
ーーーなんでも、新八君は昼間のうちに墓地の奥にある「広瀬」さんのお墓の前に人数分の木札を置いておいたらしい。
それを一人一つずつ取って戻ってくるというのがルールらしい。
……というか、新八君、君、確か昼の巡察担当だったよね?
バレたら土方さんに雷落とされますよー?
「って、ちょっと待って新八君。まさか……この中、一人で行くの?」
「そりゃそうだろ。なんだよ瑞希、怖いのか?」
「肝試しって、普通二人一組とかで行くものだよ!?」
「え、そうなのか?一人でいいかと思ったんだが……じゃあ組決めるか。適当でいいよな?えーと、それじゃあ……」
「少し良いかな、新八?」
「ん?なんだよ左之?」
原田さんが右手を挙げて、何故かこちらを意味深な笑みで見つめている。
……なんだ?
「適当で良いなら俺は瑞希と行きたいなぁ」
「ほえ?」
何故そこで私と行きたがる。
戦々恐々の私を物見遊山でもしたいのだろうか?
「……まってください左之。あなたと彼を二人きりにするなど、何をするかわかったものではありません。ですので、代わりに僕が一緒に行きます」
今度は平助君が原田さんを牽制するように一歩前に出て手を挙げる。
「別に俺は何もするつもりはないよ?」
「そんな言葉、信用できますか!」
口元では笑みを浮かべながらも、睨むように平助君を見据える原田さんに対し、こちらは正真正銘キッと相手を睨みつけた平助君がすかさず反論する。
「……桜庭」
「あ、斎藤さん」
おお斎藤さん。
いつの間に近くに来ていたんですか。
相変わらず、沖田さん同様気配殺すのうまいなぁ。
さすが歴史に残る剣豪。
「……あいつら五月蝿いから俺と行くか?」
「え?」
行くって……つまり、ペアになろうってことだろうか?
「……抜け駆けは感心しないね、一」
斎藤さんに気がついたらしい原田さんが笑みを向けてくるが、その目は全く笑っていない。
「そんなつもりはない。そもそも、お前たちが言い争いをしているのが悪い。決めるのは桜庭自身だろう」
無口な斎藤さんにしては珍しく饒舌な物言いに、対する原田さんはピクリと眉根を上げた。
「……やっぱり君、気がついてるんだ」
何やら小さく呟いたみたいだったけど何を言ったのかまでは聞こえなかったのだが。
「おーい、お前ら!何勝手に話進めてんだよ、ったく」
苦々しい表情の新八君がガシガシと頭をかきながら場を諌めるように言う。
「瑞希君、人気者だね。だけど三人とも、彼を困らせてはいけないよ」
穏やかな笑顔の山南さんの言葉に、原田さんたちは気まずげな表情になる(もちろん斎藤さんの変化はとてもわかりにくかったのだが)。
そんな山南さんの隣では晴明君が私たちを見比べ、何やら楽しげな笑みを浮かべているのが見えた。
「仕方ねぇなぁ。んじゃあ文句が出ないようクジで決めるぞ?いいよな?」
「……わかったよ」
「……はい」
「了解した」
三人の了承を得、即興で作ったクジでペア決めを行った。
その結果は……。
「……なんでよりにもよって左之なんですか」
「それはこっちの台詞なんだけど」
なんとも不思議な縁を持っているのか、ペアに決まった原田さんと平助君。
斎藤さんは私とはあまり関わりのない隊士の人とペアになり、晴明君は山南さんとペアになったらしい。
で、かく言う私はっていうと……。
「ん?相方は瑞希か」
「みたいだねー」
主催者の新八君だった。
ーーーこれはラッキーかもしれない。
だって、新八君は「広瀬さん」のお墓の場所を知ってるはずだから!
「木札の場所がわかっているから楽に終わりそう、とか思ってるだろ瑞希」
「え!?なんでわかったの!?」
「顔に書いてあるぞ」
!!
そんなにわかりやすかったか……?
「……瑞希の相手は新八か。まぁ、他の奴らにとられるよりはマシかな」
「……?原田さん、何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ」
甘い笑みで首を横に振る原田さん。
「ふふっ」
そんな私たちを見て、晴明君はついに耐えきれなくなったのか小さな笑い声を漏らしていた。
「それじゃあまずは一組目から!」
かくして幕末墓地での肝試し大会が始まった。
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「足元気をつけろよ〜瑞希」
「わ、分かってるよ」
頼りない提灯の明かりだけを頼りに古い墓地の中を進んでいく。
私はとりわけ幽霊が怖いということはないが、こうも雰囲気のある所だといないだろうとは思うのに何かがお墓の陰から出てきそうな気がして、なんとも不安な心持になってくる。
「ーっと……広瀬、どこだったかなぁ?んー?こっちか……って、ははっ!こりゃ傑作だな!」
「な、何!?」
「いや〜なんかそこの地蔵の禿頭にデッカい毛虫が3匹くらい乗ってるせいで禿頭がふさふさ頭に大変身してて面白れぇ」
「……バチ当たるよ新八君」
ーーー緊張感も何もない新八君であった。
「にしても、瑞希、大人気だったよなぁ。左之と平助はともかく、まさか斎藤までお前のこと誘うとは思ってもみなかったぜ」
「私もびっくりだよ」
「……それで、お前は本心じゃ誰と行きたかったんだ?」
「へ?私はそっちの趣味はないよ?」
今の私は男である。
この前の原田さんの時みたいな失態をこれ以上しないためにも男らしくしないといけないのだ。
「なんでそうなるんだよ……。別に俺はそっちの意味で言ったわけじゃねぇよ。仲間っつうか、友人として、誰と行きたかったのかって思っただけだっつーの。お前の意見聞かないで勝手にくじ引きしちまったからさ」
「!そんなこと気にしてたの?」
なんと。
新八君って意外とそういうことちゃんと考えてるんだね!
「……今失礼なこと考えたろ」
「あ、バレた?」
「顔に書いてある。お前って分かりやすいからなー」
「なにおう。新八君だってわかりやすいくせに」
土方さんの分のデザート食べちゃったの、あっさりとバレるくらいにさ。
「そりゃあ否定できねーな」
ははっ、と清々しい笑顔で肩を竦められる。
「っと、おお、あったあった『広瀬』の墓。木札は……ちゃんとあるな。ほら、瑞希も持ってけ」
「ああ、うん、ありが……うぎゃあああああああああああああ!!」
ほいっと新八君から手渡された木札を受け取りかけ、一緒にくっついてきた「ソレ」をみて絶叫に近い悲鳴をあげた。
「うおっ!?ど、どうした!?」
「どうしたじゃないっ!!く、蜘蛛っ!蜘蛛があっ!!」
比較的虫に耐性のある私でも苦手なソレ……手のひらほどの大きさもある蜘蛛が木札の上にドンッと、我が物顔で乗っかっていた。
「蜘蛛ぉ?んなもん……」
「いぎゃああああああああああ!!なんで手で持つんだよ新八君の馬鹿ぁっ!!」
「お、おい、やめろやめろ叩くな!剣を抜こうとするな!」
「いやぁああああああああああああ!!」
何かが右手に触れた気がしてまたも悲鳴をあげる。
「って、お、おいっ!?どこ行くんだよ瑞希!?」
が、そんな新八君の慌てたような制止を聞くよりも早く。
私は脱兎のごとく駆け出した。




