第56話 小さな歴史の改変
「うぐっ……頭痛ぇ……」
「俺もだよ……」
かの有名な大阪力士乱闘事件翌日。
昨日、しこたま酒を飲んだ、その大半が二日酔いに悩まされながらの帰り道となった。
……自業自得である。
あの後、荒れに荒れた室内の掃除諸々を行い、宿に着く頃には皆ボロボロになっていた。
昨晩お酒を一滴も飲んでいない私と、宿に残った源さん、近藤さん、そして二日酔いにはならないという沖田さんと斎藤さんのみ、まともな健康状態、という有様である。
もちろんそれも自業自得だが。
「あ、そうだ……あの、近藤さん」
一つ、気になっていたことを尋ねるべく、私は先頭を歩く近藤さんの側へ小走りに近づいた。
「なにかね、桜庭君?」
「あの、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「聞きたいこと?言ってみなさい」
「はい。……その、昨日の件で……向こうの、力士たちの方に、死人なんかは……」
「ああ、そのことかい?安心しなさい。少々怪我をした者はいるが、誰も死んではいないよ」
「えっ!?……あ、そ、そう、ですか……」
「それもこれも、君のおかげだ、桜庭君。向こう側も感謝しているそうだよ」
「そんな。私は、何も……」
「いやいや。女子の前で乱闘し始めた彼らを止めてくれたそうじゃないか」
「は、ははは……」
ものすごーく失礼極まりないことを口走ったけどね!
それにしても……。
「歴史が、かわったね、瑞希ちゃん」
「う、うわ、沖田さん!いつの間に!」
「瑞希ちゃんが近藤さんと話している時からいたけど?それよりも。……歴史、変わったみたいだね?」
「はい……。なんか、よかったんでしょうか?」
「まぁ、いいんじゃない?僕としても、君の怒った顔が見られたわけだし」
「……何が面白いんですか、それ」
「んー?秘密」
クスリと意味深に笑う沖田さんはどこか楽しげだった。
「ん……?」
「?どうしましたか、沖田さん?」
突然、あたりを訝しげに見回した沖田さんは、一瞬鋭い視線を私の後方に飛ばしたが、すぐにいつものくえない笑顔に戻って首を振った。
「いーや。なんでもないよ」
ん???
なんだったんだろうか?
「ほら、さっさと歩くよ、瑞希ちゃん」
「え?ちょっ、待ってくださいよ沖田さん!そもそも後ろあんまり付いてきてないですよ!?」
「自動自得じゃない?」
うわぁ、鬼畜だこの人。
まぁその通りだけどさ。
ああ、そうだ。
早く帰って晴明君に色々と報告しないと。
死人みたいな顔でゆっくりと後をついてくる新八君たちを尻目に、私は帰路を急いだーーーーーーーーーーーーーーー。
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【安倍晴明】
ーーー歴史が、変わった。
……歴史の改変は最大の禁忌のはず。
けれど。
瑞希さんはそれをいともたやすく変えてしまった。
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……いや、ちがう。
必ず、歴史はねじれた部分を修正しようとするはず。
そうなれば、瑞希さんが助けた人物も……きっと……。
ーーー歴史は、変えられない。
たとえ変えても、なんらかの形で、結末を合わせようとする。
歴史の帳尻合わせ。
ーーーけれど。
もしかしたら。
もしかしたらーーーーーー?
ーーーその改変は、認められるのかもしれない。
ならば。
できるだけ、あなたの思い描く改変ができるように。
……あなたの心が晴れる限りは。
あなたの思うようにお手伝いすることにしましょう。
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【???】
……歴史が……変わった……!?
そんな簡単に歴史が変わるなんて……。
「大阪力士乱闘事件」は、「あのこと」に直接関係があるものじゃないのに……!!
いったい、どうやって……!?
それとも。
それこそが「正しい運命」だと言うの……!?
わからない。
わからないわ……。
けれど。
これで証明はできた。
桜庭瑞希ならば、歴史を変えることができる。
変えられた歴史こそが正しい歴史なのだから……。
歴史は、「未来」を優先するもの。
その「未来」が、確かな「存在」として確定されている以上、その「未来」こそが歴史を作る……。
そう。
あなたという存在そのものが、歴史の改変を「正当」なことに変えているのだと思うわ桜庭瑞希ーーーーーーーーーーー。
ひょっとしたら。
あなたをこの時代に飛ばしたのはーーーーーーーーーーーー。




